2018年8月5日日曜日

1950年代初期の1215


熟成した1215(トゥウェルブ・フィフティーン)

戦後初の100%英国生産のハイクウォリティー・ムーブメント搭載のスミス社製腕時計となる1215は、1946年より生産を開始し、デラックスがリリースされる1950年代初期まで販売されていたと言われています。この1950年代初期の1215モデルは、各部にデラックスの特徴と言えるエレメントが採用された、いわば熟成されたモデル末期の1215と言えます。その内容は視覚的なデザインのみならず、ムーブメントの機能的な様々な問題点を解決すべく改良がなされているため、デラックス同様に信頼性、耐久性共に向上した1215と言える仕上がりとなっています。

文字盤にはシンプルにSMITHSのロゴのみがバランスよく配置され、これぞスミスと言える面構え、かつ初期デラックスの雰囲気を持ち合わせた、極めてスミスらしいモデルと言えるでしょう。






文字盤の表面はざらつきのある仕上がりでエイジングの効果を計算に入れてデザインされたかのような、独特な質感を生み出しています。浮彫のアラビア数字と付け根がくびれたエレガントな長短針との相性は抜群!このモデルの文字盤からデラックスのスタンダードが生まれたといっても過言ではないでしょう。



端正な作りの一段掘り下げられたスモールセコンド・ダイヤルには繊細なアラビア数字と5秒刻みのインデックスが、この時計のシンプルかつ上品な佇まいを構築しています。文字盤下部には、極めて控えめにMADE IN ENGLANDの文字が主張しています。英国生産であるスミスの誇りを感じさせるチャーム・ポイントです。



ケースは、本体、裏蓋共にSS製で、ベゼル一体型の本体のみ金メッキが施されています。真鍮に金メッキの一般的なスミスのケースとは異なり、使い込むことで地金であるステンレス・スチールが姿を現し、そのコントラストが正しく使い込まれた道具ならではの美しさとなります。竜頭も使い込まれ味わいを増した表情はオリジナルの証でもあります。


裏蓋を開けると、同時に文字盤とムーブメントがケース本体から離れる構造となっています。ムーブメントは裏蓋に埋め込まれる形となっており、SSにより包み込まれたムーブメントは外部からの衝撃から守られています。





裏蓋の背面にはヘアラインが施されています。こんなひと手間かけたデザインもこのケースの特徴のひとつと言えます。








裏蓋の内部には刻印があり、BWC(ブリティッシュ・ウォッチ・カンパニー)社製のステンレス・スチールケースであることが分かります。もちろん英国製です。







質実剛健にして繊細な高性能キャリバー、1215Cタイプムーブメントは精度耐久性に優れるだけでなく、極めて整備性の高い扱いやすいムーブメントといえ、時計士の立場では、このことはとても重要でありがたい性能と言えるでしょう。





こちらにもMADE IN ENGLANDと刻印がありもちろん英国イングランドのチェルトナム工場で生産されたムーブメントであることが分かります。








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2018年8月4日土曜日

ダブルネームのスミス 「J.W.Benson」


英国の名門ジュエラー"J.W.Benson"のスミス

ベンソンは英国の老舗ジュエラーで銀製品を中心とした宝飾品や貴金属をロンドンの上流階級に提供していたことで知られています。日本へは白洲次郎氏が愛用し政界の著名人にも広く使われたことで、その名を知られるようになったと言われています。そんなベンソンの1940年代から1950年代の懐中時計及び腕時計は、その多くの生産をスミス社へ依頼していたため、ここで紹介する二本のようなスミス社製のベンソンが、当時数多くリリースされていました。

今回取り上げる二本のベンソンは、金メッキケースにローマ数字の文字盤が魅力のモデルと、クロームメッキに夜光塗料のアラビア数字が魅力のモデル。共に経年による美しいいエイジングが、その魅力をさらに引き立てています。








金メッキのベンソン(2736B) 商品ページはこちら

エイジングにより魅力を増した文字盤
それでは、個々のベンソンの特徴や魅力に触れて行きましょう。金メッキケースのベンソンは文字盤に激しいエイジングが見られますが、それが個性的な文字盤の魅力をさらに深め新品の時計にはないヴィンテージウォッチならではの美しさを作り上げていると言えるでしょう。




自然現象が生み出したアート作品
激しく文字盤を侵食したエイジングは、ほとんどの場合、その時計を見苦しいものとしますが、このベンソンの場合は経年変化という自然現象が生み出したアート作品のような美しさを見るものに感じさせます。






オリジナル部品であることの証
均一にエイジングした、自然な表情は文字盤だけでなく、時針、分針、そして、秒針すべてに及び、それらすべてが新品時から交換されていないオリジナル部品であることの証でもあります。






英国製を選んだベンソンの拘り
文字盤の盤面より一段掘り下げられたスモールセコンドダイアルの下には、よほど注意深く覗き込まなければ、見過ごしてしまう"MADE IN ENGLAND"の文字。こんなところもスイス製ではなく、質の高い唯一の英国製を選んだベンソンの拘りと言えるでしょう。




貴金属メーカーとしてのベンソンらしさ
彫の深い刻みとふくよかな丸みを持つ竜頭にも、デザイン性を重視してた貴金属メーカーとしてのベンソンらしさを感じ取ることが出来ます。







ムーブメントにもベンソンの魅力が
スミス社製15石ムーブメントをベースに16石にチューニングを施し、さらにベンソンのロゴが刻まれたベンソン専用のムーブメント。このような小さなこだわりの集積が、スミス社製でありながらベンソンとしての魅力を構築しているのでしょう。





英国らしさがスミス・ベンソンの魅力
決して煌びやかではありませんが、高い工作精度と美しいデザインが英国製らしい質実剛健という美学を語りかけてくるムーブメントであります。







裏蓋には整備履歴が刻まれています
裏蓋には数多くの時計士が刻み込んだ刻印が残されており、この時計の整備履歴の多さを物語っています。








裏蓋で分かるケース構造の違い
裏側を見ると金メッキはスナップオン式の裏蓋。そして、クロームメッキケースはスクリュー式の防水ケースであることが分かります。










クロームメッキのベンソン(2828B) 商品ページはこちら

防水ケースの利点
こちらはクロームメッキケースのベンソン。ケースはエイジングによりだいぶヴィンテージの美しい雰囲気が際立っていますが、さすがに、防水ケース。文字盤などの経年変化はほとんど見られません。






繊細なロゴが雰囲気を変える
シルバー調の文字盤に夜光塗料が施されたアラビア数字と、針はなんとブルースチールの青焼針に長短針は夜光塗料が…。ベンソンのロゴとその下にプリントされたLONDONの文字が気品を感じさせるデザインとなっています。





MADE IN ENGLANDの意味
こちらのモデルにも、ひと際小さいスモールセコンド文字盤の下にMADE IN ENGLANDの文字がプリントされています。当時の工業製品に記されたMADE IN ENGLANDとMADE IN Gt. BRITAINとの違いは大きく、後者の場合はスコットランド、アイルランド、そして、ウェールズ製であることを意味していることがほとんどで、イングランドとは明らかに差別化されていました。


真鍮の地肌が時を語る
厚みのあるクロームメッキケースは、真鍮のベースにメッキが施されていたため、ケースのエッジ部分などに擦れて真鍮の地肌が現れている部分があります。そんなところも数十年という年月が作り上げたヴィンテージウォッチならではの魅力と言えるでしょう。




裏蓋の形状の意味
スクリューバック式の防水ケースは専用工具で開閉します。竜頭の上に見える四角い窪みは専用工具をひっかけるためのもの。








機能美を誇る竜頭のデザイン
このベンソンの竜頭も機能性を重視した二重構造の防水ケース専用。趣きある機能美はグッドデザインと言えるでしょう。








凝った作りの長短針
ブルースチールハンズは光が当たると極めて美しいメタリックブルーに輝きます。長針の先端はレンズのカーブに合わせて湾曲した優美なデザイン。







使い込まれた道具だけが持つ美しい表情
ラグの先端は傷つきやすく真鍮の地金が露出しています。正しく使い込まれた道具だけが持つ美しい表情ではないでしょうか。








チラネジが魅力
やはり、ベンソンのロゴが入り、16石にチューニングされたベンソン純正のハイクウォリティー・ムーブメント。1950年代ならでは振り子の周囲に配されたチラネジが魅力!チラネジにより振子のスムーズな回転を保っています。






スイス製ではなく英国製であること
ベンソンのロゴとLONDONの文字。そして、ENGLANDがスイス製ではなく英国製ハイクウォリティー・ムーブメントの証!








オーナーへ向けた細かな配慮
ムーブメントの上に被さるプレートは防水ケースの裏蓋を閉め込む際にムーブメントを固定させるためのスプリング機能を有したスペーサー。振り子のアジャスト機構部分を切りかいてスペーサーを外さなくても歩度調整を可能にしています。当時、時計の歩度調整はオーナーの仕事でした!





デニソン社のアクアタイトは高性能の証
こちらは、防水ケースの裏蓋の内側。英国の名門ケースメーカー、デニソン社のアクアタイト。文字通り防水ケースの称号である。










100%英国製のベンソンの腕時計はスミス社製のベンソンだけ

ベンソン社はスミス以外にも戦前や1690年代以降に時計を数多くリリースしていましたが、そのほとんどはスイス製のムーブメントやケースをしようしていました。つまり、100%英国製のベンソンの腕時計はスミス社が作ったベンソンのみであると言えるのです。

ヴィンテージウォッチらしい外観にハイクウォリティーのギャップ

今回取り上げたベンソンは、共に文字盤やケースなどにエイジングが見られ、いわゆるヴィンテージウォッチらしい使い込まれた外観を持っています。しかし、その一方、ベンソンならではの16石というチューニングされたスーパークウォリティーのムーブメントを持ち、さらに、数多くの整備記録、そして、ウォッチギャラリー・ビッグベアーの適切な整備が施されています。そのため使い込まれた使用頻度の高かった個体であることとは裏腹に極めて良好な精度と信頼性が期待できるのです。このギャップは、多くのヴィンテージウォッチ好きの心をとらえることでしょう!