2019年6月27日木曜日

個性的なデラックス



製品とともに整備の様子もご紹介

17石としては、初期のムーブメント搭載の1950年代に生産されたスミス・デラックス。シンプルで美しいセンターセコンドの文字盤に、スミスらしいデザイン要素を巧みに取り入れた生産数の少なかったレアモデルです。ブルースチールやデュオトーン、そして、ラインダイアルなどの定番デラックスだけでは満足できないスミス・ユーザーにお勧めな個性的なセンターセコンドのデラックスが、この一本。今回は製品の紹介とともに、後半では、整備の様子も、多数の写真とともに紹介いたします。

■この時計の商品ページはこちらから■

■美しいデザインのレアモデル
スミス・デラックスには様々なモデルがありますが、シンプルでありながら、ここまで美しく、そして、デラックスらしいトラディショナルな要素を盛り込んだモデルは、そう多くはないと思います。





■文字盤の色がこのモデルらしさを演出
文字盤は、なんとも味わいのあるクリーム色。この色は光の当たり方でインデックスの色合いが変化したときに様々な表情を作る効果に重要な役割を果たしているといえるでしょう。温かみがあり、美しく気品のあるクリーム色です。また、時計全体に調和が取れた色彩であるのも、この文字盤の色合いの恩恵と言えるでしょう。


■高いオリジナリティー
レンズ、ベルト、そして、ムーブメントの消耗部品は新品に交換されているものの、ほかの部分は竜頭に至るまでが、すべてオリジナルの部品で構成されています。






■3ピースの金メッキケース
このデラックスのケースは真鍮に金メッキが施されたベゼル、本体。そして、ステンレス・スチール製の裏蓋による3つのパーツにより構成された3ピース式です。表面には微細な使用キズがわずかに見られますがきわめて美しい、ニアミント。コンディションを保っています。


■レッド・アローはスミスの個性
センターセコンド針の先端に施された印象的なキャンディー塗装のレッドアローはスミスならではの個性といえるでしょう。シンプルな文字盤の差し色となり、全体のデザインを引き締める魅力的な存在です。




■英国製品の証
文字盤の6時の位置にはMade in Englandのプリントがはっきりと読み取れます。日本では、Great BritainとこのMade in Englandは大差がないように思われていますが、本国でのその差はとても大きく、スミスはその生産工場によりこの2つを使い分けており、Englandであることが、いかに重要で、誇らしいことであるかを物語っています。



■ベルトはイタリア製品
装着されているベルトは、オリジナルではありません。しかし、きわめてクウォリティーの高い、イタリア製、本リザード革を使用しています。







■ベルト裏側の刻印が品質の証
ベルトの裏側には本リザード革を使用してイタリアで、ハンドメイドされたことがわかる刻印が施されています。イタリア製品らしい美しいステッチが魅力です。イタリア製の革製品には定評があり、カラーも個性的でこのデラックスにマッチしていると考え、高額の出費覚悟で合わせてみました。






■高精度のムーブメントを搭載
デラックスはスミスの中ではハイエンドのムーブメントを搭載したモデルといえます。このモデルにも、15石のスモセコ用ムーブメントにに、2つギアを追加してセンターセコンドにした17石キャリバーが搭載されています。この写真でその構造がお分かりいただけるでしょうか。









★ここからは、オーバーホール作業の紹介です★

英国よりビッグベアーが厳選したスミスは、良い状態で使用されていたものばかりですが、新品当時の性能が期待できるものばかりではありません。そのため、デッドストック品以外のすべての時計は、テスターにかけられ、ムーブメントの状態を把握したうえで、分解され、洗浄、細部の点検、オイリング、組み立てを行います。もちろん、その際に消耗品や不具合のある部品は交換されます。その後再度テスターで診断し、全体のバランスを取りながら微調整を行ったうえで、1週間の動作確認を行います。ここでは、オーバーホールの実際的なプロセスの一部を紹介させていただきます。


■すべてを分解
ケースの裏蓋、ベゼルを外し、ムーブメントを取り出します。その後、針、文字盤を外してから、ムーブメントをバラバラにしてゆきます。





■各パートごとに細かく分解
さらに各パートごとに詳細に分解して行きギアの消耗やキャスティングの不具合。そして、各部の摩耗の状態を詳しく確認して行き、問題があれば、新品と交換します。このパートは竜頭を巻いた時の力を動力用ゼンマイへ伝えるためのメカニズムの一部分です。写真は洗浄後の、美しくなった状態です。



■直径わずか3.5mmの複雑なギア
写真右側の複雑な形状のギアは直径がわずか3.5mm。この部品は竜頭を巻き、そして、戻す際に空回りする機構に使われているギアです。この細かなギアの一つが欠けてしまっても、竜頭を巻いた際に異音を発する故障となります。オーバーホールを行う際には細かなチェックが欠かせません。左の部品は秒針の軸とピニオン。



■分針の軸と連結するギア
写真のギアは、分針の軸が筒状のシャフトの上部にかぶさる部品です。軸の先端、筒の内部には秒針の軸が貫通する構造です。真鍮製の大きなギアの上部に固定されている縦に長いピニオンギアの下の方には黒いゴミが付着しているのがわかりますでしょうか。このゴミが相手側のギア(香箱)との間に絡む位置に移動すると時計は止まってしまいます。この手のはまり込んだゴミは洗浄だけでは取れないことが多く、洗浄前の点検で見つけられれば、こそぎ落とすことができます。


■振り子も分解して注油
こちらは振り子のアッセンブリーです。軸の先端は裁縫針とは比較にならないほど細く極めて繊細。時計を落としてしまえば、ここが折れてしまうであろうことは容易に想像がつくでしょう。反対側には軸受けがあり、軸受けも分解して洗浄後に注油します。




■洗浄液につけ込みます
ムーブメントの部品のほとんどを洗浄液を入れたガラス容器につけ込みます。油汚れや微細なゴミなどは取り除くことはできますが、ギアの間に挟まったゴミは、この作業だけでは取り除けないことがあり、洗浄後、再度、点検します。




■注油を済ませ組み立て
すべてのパーツの洗浄が終わったら、注油を行いながら組み立てて行きます。注油はオイラーと呼ばれる工具の先端に、極めて微量を表面張力でつけて軸受けなどに注油。大きなトルクのかかるギアやスプリングなどにはグリスを塗ります。





■ムーブメントの文字盤側
文字盤側には竜頭を巻いた時の力をゼンマイに伝えたり、竜頭を引いて時刻合わせするためのメカニズムが組み込まれています。中心よりやや右に縦長の2か所ボルトで固定されているパーツがスミスの欠陥部品と呼ばれているボルトスプリングです。この部品の中心部から右へ伸びているアームが付け根で折れてしまい、竜頭の抜き差しの節度が失われます。折れた状態で使い続けると、竜頭周りのギアを破損して行くことになります。ウォッチギャラリー・ビッグベアーでは、国内の時計部品メーカーと共同開発で、対策部品を生産しています。英国より入荷した際には、ほとんどの場合この部品が破損しており、対策部品に交換しています。


■この時計の商品ページはこちらから■






2019年6月8日土曜日

ロンドン市場向けのスミス社製「エルメス腕時計」


ヴィンテージ・エルメスの魅力

フランスのラグジュアリー・ブランドのエルメス社は、戦後まもなく、当時、世界の中心として繁栄していたロンドン市場だけに焦点を絞った魅力的な腕時計の販売を企てていました。そして、その生産のほとんどを担っていたのがスミス社だったのです。そのことは、スミス社の品質をエルメス社が認めていたことに他ならず、また、時計のデザインだけでなくHERMESのロゴについてもスミスがデザインしたと考えられています。そんな世界的に見ても極めてレアな1950年代のヴィンテージ・エルメス。この個体は使い込まれエイジングという60年以上の年月を重ねたことにより生まれた美しさを見につけています。

■この時計の商品ページはこちらから■


■HERMESのロゴがもつ魅力
このエルメスのロゴ以外の部分は1940年代より生産されていたスミス社の1215とほとんど変わりません。しかし、SMITHSのロゴがHERMESに変わっただけで、その製品が持つ世界観は大きく変わります。そして、文字盤に現れたエイジングがヴィンテージウォッチならではの佇まいとなっています。


■繊細なスモールセコンド
スミス社製1215のデザインをそのまま受け継いだこのHERMESの繊細なスモールセコンド文字盤。ロゴのみの変更でエルメス社が自社製品として採用した意図が、この時計のあらゆるディテールから伝わってきます。




■竜頭も1215譲り
1215のシンプルでありながら、完成度の極めて高い各部のディテールは1950年代初期の時計デザインの中でスタンダートと呼べる位置づけにあった言えるでしょう。






■デニソン社のケース
そして、特徴的なホーンラグのデザインで、世界的にトレンドを作り上げた英国の名門ケースメーカーのデニソン社をスミス社、そして、エルメス社が採用していたことが、この時計の魅力を不動のものにしていたのだと言えるでしょう。





■チラネジ付きの振り子がオリジナルの証
1950年代初期のエルメス、特に使用頻度の高かった個体は、ムーブメントを1960年代のチラネジなしの振り子が装着されたものに載せ替えられていることが多いようです。この個体はチラネジが付いており、シリアルナンバーからも年式が合致しています。



■この時計の商品ページはこちらから■

2019年6月1日土曜日

スミスの個性が際立つデラックス


エイジングの魅力

たとえば、鉄に焼き入れをすることで鮮やかな青を3針に色づける。これはメタリック・ブルーの塗料を施したものとは異なります。金属に熱を加えることにより現れる化学反応であり、戦前より伝わる伝統の技といえます。そんな伝統技術により構築されている、様々な時計の材質や表面処理は、時を重ねることにより、思わぬ表情を見せてくれるものです。それらは、使用する環境により様々なエイジングとなり、使い込まれたヴィンテージ・ウォッチならではの個性となるのです。

■この時計の商品ページはこちらから■


■シャープなエッジの青焼き針
金無垢ブルースチールの、スモセコ・デラックスといっても、その年代や生産ロットによって針の形状が大きく変わることをご存じでしょうか。このモデルにつけられた長短針は一般的なブルースチール、金無垢デラックス・モデルの丸みのある膨らみや軸付近のくびれなどのデザインとは、まったく異なるデザイン。峰の部分にシャープなエッジが立っており、軸を貫通するように反対側にもわずかに伸びているのがわかります。


■飾りっ気のないシンプルな秒針
6時の位置に掘り下げられたスモール・セコンド文字盤には繊細な書体の数字が上から60、15、30、そして、45とプリントされています。また、針は飾りっ気のない極めてシンプルなブルースチールの秒針が装着されています。




■スミスのオリジナルと思われる竜頭
竜頭は、数年前にオリジナル・オーナーがスミス純正と思われる新品部品に交換しているそうで、ギザギザ部分の摩耗はほとんど見られない良い状態を保っています。竜頭はベルトやレンズ同様に外装の消耗部品に数えられるため、オーナーがストックを持ち合わせていることもあり、このようなコンディションのものが付属しているのは幸運といえるでしょう。


■Made in Englandの意味するもの
スミスの時計の中には、このデラックスやアストラルなどの、ただしく整備を行っていれば半永久的に使用できる、イングランドのチェルトナムにあるスミス社の工場で生産されたもの。そして、エンパイアなどのウェールズの工場で造られた普及品とに大別されます。つまりEnglandと記載されているものは、チェルトナム工場で生産された高級品であるといえるのです。ウェールズ製はGREAT BRITAINと表記されます。


■英国の国鉄BRが社員へ贈った時計
このデラックスの金無垢ケースには、裏蓋に刻印が施されています。BRITISH RAILWAYSは日本でいうJRに匹敵する国営の鉄道公社で、退職の際に金時計を社員へ贈る習慣がありました。このモデルの90%以上はBR系の公社によって使われていたといわれています。これも、この時計のヒストリーといえるのではないでしょうか。



■裏蓋の内側の刻印 その1
金無垢ケースの裏蓋を開けると、その内側にはいくつかの文字が刻まれています。写真のSCWはスミス・クロック&ウォッチ・カンパニーのマークで、このケースが自社製品であることを示しています。






裏蓋の内側の刻印 その2
SCWの下に刻まれた文字は、左から、「9」「375」「h」「ライオンの顔」で、その意味するものは、「9金無垢」「24金の37.5%」「1963年製造」「ロンドンの税務所」となります。これらはホールマークスと呼ばれ、もともと金、銀、プラチナ製品を製造した際にそのメーカーは税金を課税され、納付されたことの証として税務署が打刻したものでした。今では製造年を知る手掛かりとなっています。


■整備された高品質ムーブメント
このデラックスには、高精度かつ耐久性に優れた15石ムーブメントが搭載されています。しかし、高品質といえども、古い精密機械ですので、オイル切れやゴミの侵入、金属疲労などによる部品の破損などがあれば本来の精度は期待できません。ウォッチギャラリー・ビッグベアーでは、すべての部品を分解して、点検し、消耗品の交換や各部の洗浄、注油を行い歩度の調整、動作確認を行った上で皆様にお届けしています。さらに一年間の動作保証をつけさせていただいておりますので、万一の時も安心です。


■この時計の商品ページはこちらから■