スミス専任時計師のウォッチギャラリー・ビッグベアー店主、大熊 康夫のブログ
~時計師の仕事場 #0006~
■ デラックスは、ここから始まった ■
「人気モデルの"De Luxe"は、この1215から始まった」
戦後のスミス社製腕時計の中で、デザイン性と信頼性において、絶大な人気のあるデラックスの基礎を作りあげたのが、この、末期1215 "Twelve fifteen" モデルなのです。
今回は、スミス・デラックスの礎ともいえる、この、1215末期モデルのご紹介です。
「戦前の趣を感じさせる、シンプルなデザイン」
クロームメッキケース、アルミ・ヘアライン文字盤、青焼針と極めてシンプルなデザインにして、時を知るための優れた道具としての機能性が、最大限に配慮されています。
「この時計こそが、スミスだった」
文字盤には "SMITHS" の社名ロゴのみがプリントされており、モデル名はありません。戦後初の腕時計であっただけに、当時、この時計こそがスミスだったのです。
公式の呼び名としては、1946年のデビューから、1215が登場する1950年頃までは、RGと呼ばれ、1215の生産はデラックスが登場する1952年まで続きました。
一般的には、デビュー以来、デラックス誕生までのモデルを総称して1215と呼んでいます。
「3ピースの美しい、ホーンラグ・ケース」
1215の代表的なケースとして、生産数の最も多かったのが、このモデルにも使用されているホーンラグ・ケースです。
同一のデザインであっても、形状や材質の異なるホーンラグ・ケースが数種類あり、スミス社のホーンラグ・ケースへ対する拘りの程を知ることが出来ます。
実際、絶大な人気があり、デラックスの初期モデルにも、このホーンラグ・ケースが採用されていたことが、その証であると言えます。
「目覚ましい成長を遂げた1215ムーブメント」
1215シリーズの進化は目覚ましく、1946年から1952年の約6年間の間に10回以上の、スペックの見直しが行われています。
この個体に搭載されているムーブメントは、その最終形と言える熟成されたキャリバーと言えます。そのことはデラックスの初期モデルと、ほぼ変わらないということを意味しています。
「ムーブメントの文字盤側」
文字盤を外さないと見ることの出来ないムーブメント裏側には、軸受けのルビーや、竜頭からの回転をゼンマイへや時刻設定時の針の動きへと伝えるギアや、竜頭の抜き差しを制御するメカニズムが集約されています。
「片側の軸受けには、5石のルビーが装着」
ムーブメントから部品を外してゆくと、複雑な造形の地盤の形状が現れます。
スチール製のギアの軸の回転を支えるために、スチールより硬いルビーが地盤に装着されています。
透明感のある、美しいクリアーレッドに見えるのが天然石を使用したルビーで、このムーブメントの場合は、トータルで15個のルビーを使用しているため、15石というわけです。
「裏蓋側のムーブメントの軸受け」
裏蓋側のムーブメント表面には、上質なフロステッド・ギルト加工が施され、極めて美しい軸受けとしてのルビーが埋め込まれています。
「振り子にもルビーが装着」
振り子の中心付近を注意してご覧いただくと、軸の左側に赤いルビーが見えるのがお分かりいただけるでしょうか
ゼンマイから伝わって来た回転が往復運動に変換され、このルビーを左右に叩くことにより、振り子が左右に回転し続けるのです。
「変わった形状のガンギ車」
写真中央に見える、変わった形状の歯車は、ガンギ車と言って、ゼンマイから伝わって来た回転運動を、左右の往復運動に変換させるためになくてはならない歯車です。
全ての部品は、繊細かつ精巧に造られており、また、極めて美しいことをお分かりいただけるでしょう。
「ゼンマイ巻上系統の対策」
この3つの部品は、ゼンマイの巻き上げを行うための中間的なギアとカラー、そしてプレート自体に形づくられた軸です。
1215の中期までは、この3つの部品のうち、中央のスチール製のカラーがなく、真鍮製の軸へ、直にギアが装着されていました。
このギアには指が竜頭を巻きあげる力を、ゼンマイへ伝えるための大きな力が加わるため、スチールより柔らかい金属である真鍮の軸は5年ほど使用すると摩耗が進行して、ギアの回転が真円でなくなってしまうのです。これが1215が抱える問題点と言えます。
つまり、この1215には対策部品としてのカラーが加えられており、安心して日常的にご使用いただける耐久性が備わっているということなのです。
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