2023年6月15日木曜日

 スミス専任時計師のウォッチギャラリー・ビッグベアー店主、大熊 康夫のブログ

「モデルで選ぶスミス③」

~1920年代の贅沢を嗜む


鉄道や自動車の旅が贅沢だった時代

この旅行用懐中時計は1920年代に生産されたニッケル無垢ケースの極めて精度の高い15石ムーブメント搭載の高級品です。

1920年代といえば、英国初の小型大衆車として生まれたオースチン・セブンが発売されたばかりの時代ですが、実のところ貴族の奥様や使用人が使用するといった具合で、まだまだ、大衆の手には届かない高級品だったのです。

この時計の商品ページはこちら




贅沢だった旅のお供として生まれた質実剛健なトラベルウォッチ

そんな贅沢の極みといえる当時の旅の友として生まれたのが、このトラベルウォッチなのです。

当時、貴族の装飾品であった懐中時計は、金無垢や銀無垢ケースが多く見られましたが、トラベルウォッチに関しては、どちらかというと実用的な道具としての認識が強く質実剛健であることが求められていました。

そのため、剛性に優れたニッケル無垢ケースの竜頭とレンズが収まるベゼルの周囲には真鍮が使われ、美しいデザインの青焼針と共に、この時計のアクセントとなっており、いかに上質で高級であったかを物語っています。

この時計の商品ページはこちら




一週間の旅に適応させた8日間のパワーリザーブ

このトラベルウォッチに搭載されているムーブメントは、8日間のパワーリザーブが可能で、一週間以内の旅であれば、旅の途中で止まってしまうことのない利便性を備えていたのです。

文字盤のインデックスやスミスのロゴなどはすべて手描きで、その美しさは工業製品と言うよりは、工芸品の範疇といえる極めて趣深いアイテムなのです。

この時計の商品ページはこちら




酸化したことで黄色味を帯びたニッケルケース

ニッケル無垢のケースは現代においては、ほとんど見られなくなりましたが、当時は強度を重視した製品にはよく使われていました。

また、放っておくと参加して黄色味を帯びた味わい深い色となり、真鍮の竜頭やベゼルのトリミングなどとの相性がより一層良くなります。

この時計の商品ページはこちら




カラーが微妙に異なる青焼針の長短針

一見すると全く同じメタリック・ブルーに見える青焼針も目を凝らしていただくと微妙に異なったカラーであることが分かります。

これは、一本ずつ鉄針を焼き入れして行くというハンドメイドによる作業であるため、製作時の焼き加減で全く同じカラーはひとつもないという自然現象が成せる結果であると言え、とても味のある仕上がりなのです。

この時計の商品ページはこちら




スミス純正品と思われるニッケル製アルバート・チェーンが付属


この時計には恐らく純正と思われるニッケル無垢製のアルバートチェーンが付属しています。

銀無垢製品などと異なり、ホールマークがないため、この時計が販売された際の付属品であるかを示す手がかりはありませんが、恐らくスミスが純正品としていたメーカーのチェーンであると思われます。

この時計の商品ページはこちら




手のひらにピタリと収まる50.4mmのケース外径

ずっしりとした重量感のあるこの懐中時計は外径が50.4mmと、手のひらにピタリと収まる標準的な懐中時計の大きさです。

8日間のトラベルウォッチの多くが巨大なサイズ感であることで躊躇っていらっしゃる方も多いのではないかと思いますが、このトラベルウォッチは、正に実用に適したサイズであると言えます。

この時計の商品ページはこちら




専門店のオーバーホールにより、一年間の動作保証付

戦前の時計といえば、コレクション・アイテムという概念が付きまとうのではないでしょうか。

しかし、このトラベルウォッチは徹底的な整備を行い一年間の動作保証が付帯していますので、さすがに毎日使われることは、お勧めいたしませんが、長期の旅行をされる際のお供として充分なポテンシャルをそなえ、当時と変わらぬ使い方ができるよう仕上がっています。

この時計の商品ページはこちら




ポケットに忍ばせて贅沢な旅をお楽しみください

レンズはアクリル製が装着されていますので、安心して旅の道具のひとつとしてお楽しみいただくことが出来ます。

1920年代の英国に思いを馳せて、この8デイズ・トラベルウォッチと共に旅に出かけてみてはいかがでしょうか。

この時計の商品ページはこちら

2023年6月14日水曜日

  スミス専任時計師のウォッチギャラリー・ビッグベアー店主、大熊 康夫のブログ

「佇まいで選ぶスミス②」

~高次元でバランスしたエイジングの味、お好きな方にはお薦め! 



使い込まれた、その佇まいが手に馴染む

長年時計師の仕事をしていると、時を知るための道具として、長年、愛用されて来た個体に巡り合うことがあります。

今回入荷しました、このデラックスには、ある意味過酷に使用されたことで生まれる、上質な道具としての味のある佇まいが個体の魅力として感じられます。

腕に着けてみると、特に普段着の質感とも相性が良く、もう長年、自分が使い込んで来たかのように手に馴染みます。

この時計の商品ページはこちら




入荷時の状態は不動でしたが…

英国より入荷した時の状態は、ケースの小傷、レンズのくもり、文字盤の経年変化など、長年、日常的に使われて来た状態で、さらに竜頭は巻き上げられているのに振り子は停止状態でした。

しかし、すべての外装パーツは純正品で、ムーブメントは、10年以上は放置されていたようで、完全にオイルが固着していましたが、どこにも部品の不良個所は発見できませんでした。

つまり、使用頻度は極めて高かったと考えられますが、使用中のムーブメントの整備はしっかりと行われていたことが伺えます。

このことは、内部に錆の発生などなければ、適切なオーバーホールを行い消耗部品や欠陥部品を、新品や対策部品に交換することで甦る可能性があることを意味しています。

この時計の商品ページはこちら




オーバーホールにより甦ったムーブメント

全てを分解して、ケースを軽く磨いて自然な艶を取り戻し、レンズを新品に交換。文字盤や針は、クリーニングにとどめます。

さらには徹底的なオーバーホールと、ほとんどのスプリングを新品交換、特にゼンマイは耐久性の高い現代のスイス製品に。

スミスの欠陥部品であるボルトスプリングは、当店が国内の時計部品メーカーと共同開発した対策部品に交換することで、新品当時の精度とそれ以上の耐久性を手に入れ、再びしっかりとしたリズムで時を刻み始めました。

この時計の商品ページはこちら



ゴールドプレーテッド加工されたSS製BWCケースとデュオトーンが魅力

多くのゴールドプレーテッド・ケースは真鍮のベースに金メッキ加工が施されますが、このデラックスのケースはステンレス・スチールのベースに金メッキ加工が施されています。

そのためエッジ部分などが擦れて金メッキの層が薄くなると、ステンレスの銀色が薄っすらと現れて、ヴィンテージウォッチらしい、新品とはひと味もふた味も異なる
極めてクールな佇まいとなります。

また、デュオトーン文字盤の程良いエイジングは、ケースの佇まいともマッチして、この個体だけが持つ魅力であると言えるでしょう。

この時計の商品ページはこちら




光の当たり方で、濃淡が反転するデュオトーン文字盤

上の二枚の画像を比較していただくと文字盤の中央部分と外周部分のデュオトーン(ツートーン)部分の濃淡が反転していることがお分かりいただけると思います。

これは文字盤の中央と外周部分の材質をかえることで、光の反射率が異なることを利用した巧みな装飾であると言えます。

この時計の商品ページはこちら






すべてが高次元でバランスした、美しいエイジングの佇まい

程良く使い込まれてゴールドプレーテッドが擦れ、ステンレスの地が微かに顔を覗かせたケース。

長年にわたり使われてきたことで、少しずつ酸化したりと、積み重ねられたエイジングにより表情を変えて来た文字盤や針。

それらのエイジングが高次元でバランスし、このデュオトーン・デラックスを美しいとさえいえる佇まいに育んできたと言えるのです。

それは、単に古いから、または、使い込まれたから生まれた表情ではなく、材質の良いデラックスだから、そして、正しく使われて来たからこそ纏うことの出来たエイジングなのです。

良い雰囲気に使い込まれた外観と完璧に整備された発売当時以上のクウォリティーとをあわせ持つ、このデラックスのような個体こそ、最高にクールなヴィンテージウォッチらしさに溢れていると考えています。

ヴィンテージらしい佇まいがお好きな方には、また、普段使いには、お薦めのデラックスです。

この時計の商品ページはこちら


2023年6月9日金曜日

    スミス専任時計師のウォッチギャラリー・ビッグベアー店主、大熊 康夫のブログ

「モデルで選ぶスミス②」

~初期モデルならではの魅力


英国より戦後のスミス初期の1215モデルが入荷


今回、英国より入荷致しましたスミスは、戦後最初期モデルである1215の、極上といえるコンディションの個体です。

1215の中では中期に位置付けされているこのモデルは1940年代末期に生産されており、恐らく生産時期は1948~1949年であると推測されます。

ニックル製のケースとステンレス・スチール製のベゼルと裏蓋とから構成された3ピースのファンシーラグ・ケース、アルミに繊細なヘアライン加工が施された味わい深い文字盤、そして、サークル・オーナメントが付く極細の時針など派手さの全くないシンプルなデザインの中に際立った個性が随所にみられる極めて美しいモデルであると言えます。

この時計の商品ページはこちら




この初期モデルならではのピュアな魅力


スミス1215シリーズの中でも、このモデルには、シンプルかつピュアな際立った魅力が多く詰まっています。

角のような独特な形状のファンシーラグは、その形からホーンラグとも呼ばれています。

そして、スミスのロゴはシンプルに配置されており、他にはシリーズ名の1215などの表記すらありません。

また、最も印象的で、魅力ある時針に施されたサークル・オーナメントは、スミスに限らず他の時計においても極めて珍しく、かつ、魅力的な装飾であると言えるでしょう。

さらに、飾りっ気のないアラビア数字と、主張し過ぎないドットと共に、シンプルだからこそ感じられる奥深い魅力が溢れています。

どんな製品であっても、初期モデルには、大きな魅力を感じることが多いと言われていますが、その理由は、デザイナーや設計者の意向が色濃く反映されているからと言って良いでしょう。

この時計の商品ページはこちら



美しさが際立つ1215-Cタイプムーブメント


1215のムーブメントの基本設計は、デラックスのCタイプムーブメントとほぼ同じですが、1215の中期までは、真鍮ベースのムーブメントの骨格がニッケルメッキであることや表面にはコート・ド・ジュネーブ加工が施され、スミスのロゴが刻み込まれているところで独自の雰囲気を醸し出しています。

コート・ド・ジュネーブとは、広大なレマン湖の南端に位置するスイスの都市ジュネーブの庭という意味で、ムーブメントの表面に繊細な曲線を刻み込むことで、実際には平らな面を曲面に見せる効果のある、スイスの高級時計に使われている表面加工です。

この個体のムーブメントは、オシドリという部品に問題があったため竜頭を引き抜くことが出来ず、それに伴いムーブメントをケースから外せなかったことで、整備が出来ず、その生涯のほとんどが不動状態であったため、ほとんど使用されておらず、各部は新品状態を保っていました。

当店では、ムーブメントをケースから取り出し、完璧なオーバーホールを行うことで、本来のスミスの性能と美しさを甦らせることが出来ました。

この時計の商品ページはこちら



安心してお使いいただける1215に


1215シリーズの中期までのモデルにはゼンマイの巻き上げ系のギアの軸に消耗しやすい問題点がありますが、この個体は、その部品の消耗が全くなく安心してお使いいただくことができる状態でした。

また、今後使用して行く上での予防策と致しまして、粘度の高いグリスを注入していますので、万全な仕上がりととなっております。

デザイナーや設計者の意向が色濃く反映されているスミスの初期モデルならでは魅力を、安心して日常的にお使いいただける状態に仕上げた極上の1215をご堪能下さい。

この時計の商品ページはこちら


この時計の商品ページはこちら




2023年6月5日月曜日

 スミス専任時計師のウォッチギャラリー・ビッグベアー店主、大熊 康夫のブログ

「ヒストリーで選ぶスミス①」

~ローバー社のアストラル~


英国よりローバー社のアストラルが入荷!


今回、入荷致しましたアストラルは、単なる箱付の極上品ではなく、英国の老舗自動車メーカーのローバー社が、スミス社へ依頼して製造した金時計なのです。

ローバーミニやランドローバーを始めとしたローバー車のオーナーであれば、その存在を知り、探されていらした方も多いのではないでしょうか。

この時計の商品ページはこちらから




ケース裏面の刻印が、この時計の隠された魅力


スミス社直系のケースメーカーSCW社によるキャスティングの9金無垢ケース裏面には、繊細な同心円の装飾があり、そこには、ローバー社の社名と共に社員の名前など贈られた際の情報が美しく刻印されています。

オリジナル・ボックスに長年保管されていたため、極めて良い状態を保っています。

この時計の商品ページはこちらから




ローバーミニとスミスとの唯一の接点


初期のミニのスピードメーターがスミス社製であったことは、どの時代のミニのオーナーであっても周知のことでしょう。

ただ、ローバーミニの時代には、スミス社はすでに自動車用のメーターは生産しておらず、両者には接点がありませんでした。

ところが、このスミス・アストラルの金時計には、裏蓋にローバー社の社名が刻印されており、この時計が生まれた1965年には、ローバー社はミニを生産していませんでしたが、英国自動車メーカーの合併吸収などにより、時を経てローバーがミニの製造会社となる時代がやって来たという訳です。

この時計が世に生まれた1965年はBMCがミニを生産していた時代でしたが、ローバーとBMCとがミニを介してリンクしたローバーミニのオーナーには、マストなスミス・アストラルであると言えるでしょう。

この時計の商品ページはこちらから




完璧な整備で甦ったローバー・スミス


どんなに保管状態が良かった個体であっても、50年以上が経過した機械式腕時計には、正しい整備が必要です。

スミス専門店のビッグベアーでは、すべてを分解し、不具合箇所だけでなく、現状まだ使えそうな消耗部品などでも、金属疲労などを生じている可能性のある部品に関しては、新品交換を行い、各部の徹底的なバランス取りを行うことで、本来のスミスの精度と耐久性とを甦らせています。

この時計の商品ページはこちらから





2023年6月2日金曜日

   スミス専任時計師のウォッチギャラリー・ビッグベアー店主、大熊 康夫のブログ

「モデルで選ぶスミス①」

バランス感覚が光るスミス・アストラル~




英国よりアストラルの稀少モデルが入荷

スミス社は、自社チェルトナム(イングランド)工場製の高性能腕時計を30年以上の間、生産していたため、販売されたモデルの数は極めて多く、定番モデル以外にも、少量のみを生産した希少モデルも少なくありません。

今回、英国より入荷致しました1960年代のアストラルは、正にそんな希少モデルのひとつで、とても個性的なデザインが魅力です。

さらに状態が極めて良好で、ラグ先端のわずかな金メッキの擦れや、微細な文字盤などのクスミが見られますが、ニアミントコンディションで、このモデルの魅力を存分にお楽しみいただけます。

この時計の商品ページはこちら



個性的な文字盤が魅力

文字盤に刻まれた繊細なライン、一段掘り下げられた矢印のような形の大胆なデザイン12時のみがアラビア数字で、楔型と2本のバトンで構成されたインデックス。

さらには、太い菱形の長短針とスミスらしいレッドアローの秒針など、すべてが個性的なエレメントツであるにも関わらず、全体的にはまとまりのある英国的な気品を身に着けています。

何の秩序もない世界のように思えますが、隠された法則に従って構築されているように感じられるほどにバランスの良いデザインは、このアストラルを、希少モデルであると同時に、極めて魅力的なモデルたらしめています。

この時計の商品ページはこちら




極めて美しいキャンディー塗装のレッドアロー

秒針の先端にある赤い矢印は、秒針自体の形状が三角形になっておりクリアーレッドがキャンディー塗装されることで立体的なルビーが付属しているようなデザインに仕上がっています。

このクリアーレッドはクスミが出たり薄くなったりと経年変化による劣化が見られることもありますが、この個体は極めて美しい状態を保っており、このアストラルのチャームポイントになっています。

この時計の商品ページはこちら




シンプルながら、美しいラインを描くケースデザイン

このアストラルのケースは3ピース構成で、ベゼルと本体がゴールド・プレーテッド加工された真鍮製。

そして、裏蓋のみが剛性に優れたステンレス・スチール製です。また、夏場の汗などにも腐食しにくく、実用にも優れた性質です。

竜頭及びレンズは新品が装着されているため、発売当時の快適な操作が可能であるとともに透明度の高いレンズの効果は絶大です。

また、竜頭の抜き挿しの節度を司っているボルト・スプリングは、スミスのアキレス腱と言われていますが、ビッグベアーが国内の時計部品メーカーと共同開発した対策部品に交換され、新品当時以上の耐久性を生み出しています。

この時計の商品ページはこちら




美しく整備されたムーブメントは、高精度の証

このアストラルは、外観同様にムーブメントの状態も、とても約60年が経過した製品とは思えないほどの極めて美しい状態を保っています。

このことは、いかに使用頻度が少なかったことを表していますが、使われていなかった時計には、それなりの問題点が潜んでおり、たとえば、オイルの固着や見えない部分の錆の発生がそれにあたります。

ウォッチギャラリー・ビッグベアーでは、充分な新品部品や対策部品など経年により不具合の出やすいパーツを常に在庫しており、販売しているスミスに対しては、長年の使用にも充分に耐えられるよう適切な整備を行っております。

この時計の商品ページはこちら




長く使うことで味わい深く感じる英国デザイン

優れた英国製品の個性的なルックスは、単に流行を追ったり奇を衒ったりといった表面的なものではありません。

第一印象で、この時計にわずかながらも違和感を伴う興味を感じたとしたら、一週間もすると、この時計が忘れられなくなり、腕に着けだしたら、離せなくなるでしょう。

そして、時を重ねるうちに、このアストラルの魅力の虜となり、深みにはまってゆくことでしょう。

この時計の商品ページはこちら