2021年3月21日日曜日

「英国散歩」
デザインには、その時代が反映されている
写真・文:大熊 康夫


ハーフティンバーのコテージ

木造と漆喰によるハーフティンバーと呼ばれるコテージの起源は、15世紀後半からのチューダー朝に遡る。しかし、19世紀のヴィクトリア時代において、新しい技術や素材を投入し、
モダナイズされた建築への反発として、このようなチューダー様式のコテージが英国各地の、特にカントリーサイドに数多く建てられていた。



1968 Smiths Astral     1955 Smiths De Luxe

デザインの方向性

建物に限らず、革新を求めたり伝統を重んじることは、様々なプロダクツ・デザインに取り入れられることが多い。例えばスミスの時計であれば、左のアストラルは未来を見据えた新しいデザインであり右のデラックスは伝統を重んじた古典的なデザインと言えるだろう。

それでも、生産後、数十年を経た今、両者を眺めると。どちらにもヴィンテージ・ウォッチとしての味わいが、その佇まいの中に、それぞれの個性として、しっかりと感じられる。

その理由は、どちらもその時代においても、間違いのないデザインであったことに他ならないのだ。





時代の見分け方

では、ここで上級者向けの問題をひとつ。この、ハーフティンバーの建物は、どの時代の建造物であろうか?

ハーフティンバーということだけに着目すると、チューダー朝という答えが浮かび上がる。しかし屋根が茅葺ではなく、スレートであることを考えると…、いや、オリジナルはチューダーで、ビクトリアの時代に吹き替えられた可能性も…。

そこで着目していただきたいのは、この建物は、一階部分よりも、前面にせり出している分、二階の方が大きいこと。この建築方法は、ビクトリア時代の重課税から免れるため、一階部分の建坪を小さくした苦肉の策なのだ。当時、一階の建坪に応じて課税されており、背後の建築は、後に建て増しされたものと考えられる。

つまり、ビクトリア朝が正解。どんな、プロダクツにも、そのデザインには、時代が反映されているのだ。


「英国散歩」は、大熊 康夫が、1989年より古い英国車で、英国各地を訪れた際に撮影した写真で、英国の知られざる魅力を伝えて行く企画です。


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