2021年3月23日火曜日

 「英国散歩」
スミスで、毎日を古き佳きイングリッシュ・タイムに
写真・文:大熊 康夫


英国への憧れ


何気なく過ごしている生活の中に、実は、西洋の、特に英国の文化が多分に取り入れられているもの。たとえば、クルマは左、人は右といった交通ルールは英国由来なのだ。それゆえ、英国の文化が知らずのうちに身につくことで、少なからず英国への憧れを持っているのではないだろうか。

それらは、音楽、ファッション、文学や美術など多岐に及ぶ。もっと身近な食生活に至っては、誰もが知っている紅茶や、ローストビーフ、ウィスキーなど例を挙げたらきりがない。

さらに、一つひとつの切り口には、とても幅広いジャンルや種類があり、また、奥深いヒストリーがあるという意味では、どれも趣味性が極めて高い。



古いパブは、それ自体がアンティーク

趣味性の高い、英国の嗜好品と言えば、ウィスキーを思い浮かべるかもしれないが、イギリス人の集いの場となっているパブでは、ビールが主流。アイルランドのギネスは良く知られた銘柄だが、英国を旅して、場所を変えれば、その数だけローカル・ビールを楽しめるほどポピュラーな存在。

英国の老舗パブは、そのほとんどがヒストリックな建物で、数百年前に建てられた萱葺屋根のパブまでもが存在する。英国では、歴史が深いほど、そして、天井が低いほど良いパブとされている。

天井が低いということは、それだけ古いことを意味している。つまり数百年経過してもリペアすることの出来る、しっかりとした基礎を持つコンストラクションが、良いパブの条件のひとつとなっているというわけだ。そんなパブに足を踏み入れると、彼らは「ウーン、ベリー・オールド…」などとつぶやき笑みを浮かべる。



ヴィンテージカー趣味

パブや民家などの建築物は、優れたデザインや由緒ある歴史から、古いが故の高い価値を生み出している。オーナーは修復を行ったり、実際に住むことで、良いものを継承するとともに、毎日の生活において贅沢な楽しみを味わうことができる。おなじような観点から、英国ではヴィンテージカーが身近な趣味の対象となっている。

よく英国人は、物を大切にして長年使い続け、決して捨てないと言われている。それは、ヴィンテージカーにとってもいえることで、大切にするということの意味は、常にピカピカに磨いてガレージに仕舞い込んでいるというだけではない。貴重なヴィンテージカーであっても、彼らは、道具として惜しみなく使って存分に楽しむ。動態保存こそが、英国流のヴィンテージカー趣味というものだ。

その代わりに、ドライビングを楽しんだら、しっかりと整備をして常に良い状態を保つことを怠らない。長く使うことを前提に設計された英国製の古い道具は、クルマに限らず、良いメンテナンスを行っていれば、いつまでも使用することが出来る。これぞ英国的な質実剛健といえるだろう。




身近な英国製品である、スミスの時計

さて、ここで、我らがスミスの時計の話となるわけだが、時計メーカーとしてのスミスの歴史は長く、派手さは微塵もないが、どこに目を向けても間違いのない飽きのこないデザインが英国らしい。そして、質実剛健を貫いた英国製ムーブメントからは、耳を澄ませば、リズミカルなチクタク音が聴こえ、静寂の一瞬に安らぎを与えてくれる。


デラックスやアストラルなどの長期間の使用を前提に造られた高級機には、高性能かつ耐久性の高いムーブメントが搭載されている。残念ながら、時計メーカーとしてのスミス社は現存していないが、ウォッチギャラリー・ビッグベアーでは、メンテナンスに必要なパーツの再生産を含めた、スミス専門店としてのノウハウを積み重ね、日常の時計としてのサポートに努めている。


英国に、そして、正しい道具としての時計に興味をお持ちならば、生活の中にスミスを加えてみてはいかがだろうか。毎日が、古き佳きイングリッシュ・タイムとなり、ファッションや食生活に留まらず、趣味の世界観や人生観までに、英国的な心の豊かさを与えてくれるはずだ。


そして何より、英国伝統の優れたデザインを纏った、本物の英国の道具を日常的に使いこなすという喜びは、筆舌には尽くしがたく、いわば、萱葺屋根のコテージや、ヴィンテージカーを手に入れたのと同じように、古き佳き英国、そのものを手に入れたかの如くである。


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