スミス専任時計師のウォッチギャラリー・ビッグベアー店主、大熊 康夫のブログ
~時計師の仕事場 #0001~
「特別な黒文字盤デラックスが英国より入荷」
英国より人気の黒文字盤デラックスが入荷しました!でも、そのデラックスは、黒文字盤のデラックスをよく知る人でも、そう簡単にはお目にかかることの出来ないクロームメッキ・ケース・モデルなのです。
黒文字盤の腕時計は、個性的ではありますが、スミスの中では安定した人気のあるモデル。購入を考えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか?
もしも、クロームメッキ・ケースのセンターセコンド黒文字盤があればな…。と、そう思っていた方には見逃せない個体と言えます。
「手を抜かないスミスのデザイン」
センターセコンド黒文字盤のふたつのデラックスは、単にケースの材質を変えただけのバリエーションに終わらず、それぞれのカラーに合わせて針のデザインやロゴのカラーを変えているところは、スミスらしいセンスであり、スキのない英国的なデザインと言えるでしょう。
「ケースに合わせた針のデザイン」
上の写真は、このクロームメッキ・ケースに合わせてデザインされたスミス純正のオリジナル3針です。長短針はクロームに、そして、秒針は差し色の赤にペイントされています。トータルバランスを考えた、飽きの来ない長く使えるスミスらしい英国的な美意識なのです。
「竜頭はスミスのデッドストックを使用」
このデラックスが、手元に届いた時は、ベルトはなく、レンズと竜頭は消耗していたため、ベルトとレンズは、純正と同じ規格の現代の製品に新品交換しました。
そして、竜頭の在庫を調べたところ、ステム(竜頭の軸)付、デッドストックの竜頭が見つかり、共にスミス純正の新品交換となりました。
スミスの外装部品は、デッドストックの在庫が極めて少ないため、購入される方は、新品当時の巻心地を体感いただけますのでラッキーですね!
上の写真は、入手が難しい、このモデル用デッドストックのスミス純正竜頭アッセンブリーです。
「特別なオーバーホールで、工場出荷時の性能を取り戻す」
ビッグベアーが販売しているスミスは、デッドストック品を除く、ほとんどの時計に対して、消耗品や、不具合のある部品の新品交換を含めたオーバーホールを行っています。
スミスは当時、日本には正規輸入されていなかったので、部品の供給は皆無と言え、専任の時計師もいませんでした。そのため、当店では英国のデッドストック部品や、スイス製のスミスに使用できる新品部品を徹底的に探し、特にムーブメントの部品に関しては充分なストックを用意しています。
それゆえに、単なるオーバーホールでは成しえない、工場出荷時の性能を取り戻すこと、そして、当時以上の長期動作保証を行うことが可能なのです。
上の写真は、分解・洗浄を済ませた部品です。各部品の細部に至るまで、不具合箇所がないか点検して注油を行い、組み立てて行きます。時計の心臓部と言える振り子アッセンブリーは、さらに分解を進め、徹底的にメンテナンスを行います。
ギアの隙間に残った汚れが、ひとつあっても、後々の精度や動作に影響するため、オーバーホール中、最も大切な作業であると言えます。
「精度は繊細な整備の積み重ねで生まれる」
上の画像にあるシャフトは、このセンターセコンド黒文字盤デラックスの秒針の軸です。上にある振り子(直径9.2mm)アッセンブリーと比較していただくと、その先端(直径0.2mm)が、いかに繊細であるかお分かりいただけるでしょう。
その先端が少しでも曲がっていれば、動作に影響を及ぼしてしまいます。
「普段は目にしないムーブメントの文字盤側」
上の写真は、ムーブメントに文字盤を取り付ける直前の状態。真鍮ダイキャスト製で、ムーブメントの剛性を保つ、ベースとなっている部分です。右側やや下に位置する複雑な形状の銀色のプレートが、スミスの欠陥パーツと言われているボルトスプリングで、新品時より5年ほど使用すると、破損してしまいます。
もちろん、ビッグベアーが開発した対策部品に交換されているので、半永久的に破損することはなく、安心して使っていただけます。
「この個体のシリアルナンバー」
写真のCで始まる6桁のナンバーは、この個体に搭載されているムーブメントのシリアルナンバーです。この番号からおおよその製造年式を知ることが出来ます。
この個体は1950年代後期の製造で、このモデルが販売されていた1957年とズレはなく、純正のムーブメントであると言えます。