スミス専任時計師のウォッチギャラリー・ビッグベアー店主、大熊 康夫のブログ
~時計師の仕事場 #0012~
「英国らしさとスミスらしさがここにある」
1955年デュオトーン・ダイアル・デラックス
スミス・デラックスの魅力は過度に主張することなく、上質さと堅実さ、そして、英国らしい控え目なデザインと材質であると言えるでしょう。
9金無垢ケースを使用したフラッグシップ・モデルは、特にその傾向が顕著で、上質な金無垢の中でも、派手さのある輝きを主張した18金ではなく、9金を採用するところは、英国的であるところです。
最も大きな刻印である菱形にBWCとかかれているのは、ホールマークの中でも、メーカーズ・マークと呼ばれているもので、BRITISH WATCH COMPANYというケースメーカーのマークです。
その上の四つの刻印は、このケースをBWC社が製造した際に、エジンバラの税務署が施させたもので、9と・375は共にケースの材質が9金であることを表し、中央左側のお城のマークはエジンバラを、Zはイヤーマークといい1955年を表しています。
つまり、ホールマークは、本来、製造年号を知るために刻印されたものではなく、金、銀、そして、プラチナ製品の課税するため、その製品を製造した際に納税したことの証として、税務署が、暗号化した年号と共に金の含有率を打刻したということなのです。
また、この裏蓋の内側には、多数の数字などが刻み込まれていますが、これらは時計師が整備した際に施したもので、その時計師であれば、その履歴が分かると言う訳です。
数多くの整備履歴のある、ムーブメントの多くは、工具キズと言われる分解、組立を繰り返したことによるキズが見られるものですが、このムーブメントのパーツには、それらが、ほとんど見られない、極めて良い状態を保っています。
そのことから、分かるのは、手を加えた時計師が一流の仕事をしていたことに他なりません。
ビッグベアーでは、スプリングなどの消耗部品の新品交換や、欠陥部品の対策部品交換を含む、スミス専門店ならではの徹底したオーバーホールを行っていますので、工場出荷時の精度と、それ以上の耐久性を備えたムーブメントへと甦らせています。
1950年代の17石ムーブメントは、センターセコンド化したことで増えるギアや軸受けを支えるフレームの増設により、15石とは異なった見ごたえのある設計となっています。
さらに、振り子のチラネジの存在や、骨格部分の真鍮部材に施されたフロステッド・ギルト加工などにより英国的な機能美を感じさせる外観に仕上がっています。
この時計の商品ページはこちらから