スミス専任時計師のウォッチギャラリー・ビッグベアー店主、大熊 康夫のブログ
~時計師の仕事場 #0014~
「風格ある佇まいの銀時計」
スミスが英国生産した初の懐中時計
英国デニソン社製の最上級銀無垢ケースの渋い輝き、そして、アイボリーに色づいた盤面に伝統を感じさせるローマ数字が並ぶ文字盤に、青焼針が色を差す。
それらは、製造後、75年以上の歳月を経て来たことで纏った新品以上に魅力的な佇まいであると言えるでしょう。
スミス社が、スイス・ジャガールクルトの技術を投入し設計、生産した15石ムーブメントには、腕時計用と懐中時計用の両方にスイス製の超高級時計などに使われている"コート・ド・ジュネーブ"加工が施されています。
コート・ド・ジュネーブ加工は、光の反射率を利用した巧みな装飾で、ムーブメント表面は、山状になだらかな曲面を描いているように見えます。
しかし、実は目の錯覚を利用しており、ムーブメントの表面は平で、極めて繊細な曲線が彫り込まれているのみなのです。
表面にコート・ド・ジュネーブ加工が施されたムーブメントには、真鍮ベースにニッケル・メッキが施されており内部も美しく仕上げてあります。
工作精度の高い、15石ムーブメントは5ビートであることもあり高い歩度と耐久性を誇っています。
このモデルは、1946年に、スミス初の英国は、イングランドのチェルトナムに建設された、スミス自社工場にて製造されていました。
4ビートの懐中時計は、生産コストを抑えるためウェールズのスミス自社工場にて生産されていましたが、高級機である5ビートは、スイス・ジャガールクルト社の設計技師ロバート・レノア氏をスミス社へ招き入れプロジェクトを立ち上げ、開発から製造までを一貫してイングランドで行うことに成功しました。
この個体は、決して、新品同様の美しさではありませんが、程よいエイジングは、大切に長年使用されてきたことを物語る、とても趣ある佇まいを作りあげています。
文字盤のアイボリー・カラーや銀無垢ケースの酸化、そして、使用キズなどによる、全体的な味がこのモデルにとっての最大の魅力となっています。
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