2022年8月31日水曜日

スミス専任時計師のウォッチギャラリー・ビッグベアー店主、大熊 康夫のブログ

~時計師の仕事場 #0022

「1950年代スミス15石手巻腕時計のメカニズムを覗く」 

分解組立作業から時計の仕組みを知る


Example=1954 Smiths De Luxe





「分解から分かること」

金無垢ケースからムーブメントを取り出し、分解し、すべての部品をチェックしながら、洗浄液につけ込み、ゴミや古いオイル/グリスなどを取り除き、油脂類を施しながら組立ます。

一般的に、この作業を分解掃除(オーバーホール)と呼び、英国ではクリーン&サービスなどと言います。

当時の機械式時計は気密性が低く日常使用することでゴミの侵入は避けることが出来ず、オイルやグリスの寿命は5年と言われているため、オーバーホールは、使用頻度により、必ず2~5年に一度は行わなければ良い状態を保つことができません。

また、分解することで、各部の状態を点検することが出来、消耗部品を交換したり各部の不具合を把握できると言う訳です。







「ゼンマイの動力が振り子へ動力を伝えるまでの仕組み」

このデラックスには、15石の高精度ムーブメントが搭載されていますが、上の写真は、ゼンマイの動力が振り子へ伝わるまでのギアを組んた状態です。一番奥にある大きなギアは、日本では香箱と呼ばれている、内部にゼンマイが収まる筒状のギアです。

香箱自体がゼンマイの反力で回転し、ムーブメント中央の分針に繋がる軸を持つギアを一時間に一回転させ、手前左のインターミディエイト・ギアへ動力を伝え、さらに中央の秒針に繋がる軸を持つギアを一分間に一回転させ、次に、銀色のガンギ車という特殊な形状のギアへと動力を伝えます。

このガンギ車は、その先のアンクルという部品と共に、回転運動を往復運動へ変換させ、その動きは振り子の往復回転運動の動力となり、振り子の正確なリズムが時計全体の動作を制御しているのです。





「指の力を蓄えるゼンマイ」

上の写真は、ゼンマイが収まる真鍮製の香箱の蓋を開けた状態で、筒状のケースの外周にはギアの歯が並んでいるのが分かります。

竜頭を巻き上げることで、軸を回しゼンマイが巻き上げられ、蓄積された指の力が、時計の動力となります。

前述したように、幾つものギアを経て、また、その回転運動が往復運動に変換され、振り子を往復回転運動へと導きます。






「一秒を生み出すメカニズム」

そして、振り子は、正しい時刻を常に表示させるためのリズムを生み出しています。

つまり、時計の動力系統のすべてのギアは、振り子のリズムに従って一定の秩序を保っていますが、秒針、分針、そして、時針の軸は、異なるギア比によって、60秒、60分、そして、12時間で一回転するように巧みに設計されているのです。

振り子が一秒という正確なリズムを作り出す仕組みを理解しようとするのは簡単ではありませんが、大まかな機械式時計の仕組みを把握していただくと、実際にスミスを日常的に使用した際の親しみが、いっそう深まるのではないかと思います。

2022年8月26日金曜日

  スミス専任時計師のウォッチギャラリー・ビッグベアー店主、大熊 康夫のブログ

~時計師の仕事場 #0020~

「この個体にしかない魅力とは」 

1957年青焼針のデラックス 





「ここまで使い込むのは難しい」

このデラックスを始めて目にした時の、第一印象は、エイジングのクールな佇まい以外の何物でないと言えるでしょう。

金無垢のデニソンケースが、青く輝くブルースチールハンズが、という以前に、まぎれもなくこの個体にしか存在しない、見事とまで言える美しいエイジングが視線を釘付けにしてしまうに違いありません。







「エイジングとは」

ひとことにエイジングといっても、その種類は、千差万別。日の光や湿気、そして、空気中のに含まれる酸素を始めとした様々な物質が、長い歳月の経過によりもたらす、いわゆる経年変化のこと。

しかし、それらは、ケースや、文字盤、そして、針などの材質により必ずしも同じような結果が現れるわけではありません。

艶のないアイボリー色の文字盤には、こんがりと日焼けしたかのように、そして、青焼針には酸化にによる微細な化学反応が蓄積され固有の表情を作っています。





「歳月によって生まれた美しさ」

このデラックスの文字盤には、金メッキされた浮彫のアラビア数字インデックが施されているため、その個々の数字の周辺は他よりも、やや、色濃くエイジングが進むという特性があります。

このことが、より一層この文字盤に趣深いエイジングを生み出し、人工的ではない、自然現象的な美しさを作り出しています。

それは、保管状態や使用環境など、極めて多くの要因が60年以上の時と共に影響し合い育んできた佇まいであると言えます。





「正しく使われ、整備されて来た証」

ムーブメントを分解してみることで、このデラックスが、いかに正しく使われ、そして、優れた時計師の手によりメンテナンスされて来たかが分かります。

全ての部品は極めて美しく、偏摩耗などが一切なく、消耗部品も定期的に交換されてきたことが分かります。





「剛性の高いフレーム構造は英国的」

スイス製の見せるムーブメントとは大きく異なる、高い剛性を重視して設計されたスミスのCタイプ15石キャリバー。

質実剛健なその設計思想は、メンテナンスを怠らなければ半永久的に使用可能な極めて英国的なムーブメントであると言えます。




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2022年8月11日木曜日

   スミス専任時計師のウォッチギャラリー・ビッグベアー店主、大熊 康夫のブログ

~スミス腕時計・モデル紹介 #0001~ 

「オースチン社生誕50周年記念モデル」

英国自動車業界との深い関りが生んだ必然のコラボ



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ここに紹介するモデルは、1950年代に、ミニを始めとするカニ目やビッグ・ヒーレーなど数多くの名車を生み出した英国を代表するオースチン社がスミス社へ依頼し、創業50周年(ゴールデン・ジュビリー)を迎えた1955年にリリースした、スミスのデラックス・モデルです。






    「スミス社の英国自動車業界との深い関り」

1851年に、ロンドンの時計店として創業したスミス社。創業者サミュエル・スミスの孫にあたる同名のサミュエル・スミスが1910年代に、モーター・アクセサリー部門(スミス・モーター・アクセサリー・ディビジョン)を立ち上げました。

モーター・アクセサリー部門のスミス社は、主に自動車のメーターを始めとする計器類の製造販売を行い、ほとんどの英国車のメーターを手掛けていました。






「オースチン社とスミス社のコラボ・モデル」

そのため、スミス社は、オースチン、モーリスなど、英国の自動車業界との関係が極めて深く、ゴールデン・ジュビリー(創業50周年記念)や、退職時などに社員へ贈られた金時計として、金無垢のスミス・デラックスやアストラルなどが使用されていました。

中でも、1955年にリリースされた、このデラックス・モデルはスミス社初の自動車業界とのコラボレーションであると言われています。







「裏蓋に刻まれた美しい文字がオースチンの証」

金無垢ケースはケースのすべてが金無垢で造られており、その裏蓋も、もちろん金無垢製。そこに美しく刻まれた文字には、この時計をオースチン社が創業50周年のゴールデン・ジュビリーの年に勤続25年以上の社員へ贈った証であることが、誇らしく記されています。






「純正のプレゼンテーション・ボックス」

写真のボックスは、1955年にオースチンの社員へ贈られた際に使われていた、スミス純正のレザーバウンド・プレゼンテーション・ボックスです。

木製のボックスの表面にはレザーが張られ、さらにオースチンの紋章と社名ロゴ、そして、ゴールデン・ジュビリーの年号が金箔押しにて極めて美しく施されています。







「自動車メーカーとコラボしたスミス」


オースチン Second                   オースチン First                         モーリス without a box