英国の名門ジュエラー"J.W.Benson"のスミス
ベンソンは英国の老舗ジュエラーで銀製品を中心とした宝飾品や貴金属をロンドンの上流階級に提供していたことで知られています。日本へは白洲次郎氏が愛用し政界の著名人にも広く使われたことで、その名を知られるようになったと言われています。そんなベンソンの1940年代から1950年代の懐中時計及び腕時計は、その多くの生産をスミス社へ依頼していたため、ここで紹介する二本のようなスミス社製のベンソンが、当時数多くリリースされていました。
今回取り上げる二本のベンソンは、金メッキケースにローマ数字の文字盤が魅力のモデルと、クロームメッキに夜光塗料のアラビア数字が魅力のモデル。共に経年による美しいいエイジングが、その魅力をさらに引き立てています。
金メッキのベンソン(2736B) 商品ページはこちら
エイジングにより魅力を増した文字盤
それでは、個々のベンソンの特徴や魅力に触れて行きましょう。金メッキケースのベンソンは文字盤に激しいエイジングが見られますが、それが個性的な文字盤の魅力をさらに深め新品の時計にはないヴィンテージウォッチならではの美しさを作り上げていると言えるでしょう。
自然現象が生み出したアート作品
激しく文字盤を侵食したエイジングは、ほとんどの場合、その時計を見苦しいものとしますが、このベンソンの場合は経年変化という自然現象が生み出したアート作品のような美しさを見るものに感じさせます。
オリジナル部品であることの証
均一にエイジングした、自然な表情は文字盤だけでなく、時針、分針、そして、秒針すべてに及び、それらすべてが新品時から交換されていないオリジナル部品であることの証でもあります。
英国製を選んだベンソンの拘り
文字盤の盤面より一段掘り下げられたスモールセコンドダイアルの下には、よほど注意深く覗き込まなければ、見過ごしてしまう"MADE IN ENGLAND"の文字。こんなところもスイス製ではなく、質の高い唯一の英国製を選んだベンソンの拘りと言えるでしょう。
貴金属メーカーとしてのベンソンらしさ
彫の深い刻みとふくよかな丸みを持つ竜頭にも、デザイン性を重視してた貴金属メーカーとしてのベンソンらしさを感じ取ることが出来ます。
ムーブメントにもベンソンの魅力が
スミス社製15石ムーブメントをベースに16石にチューニングを施し、さらにベンソンのロゴが刻まれたベンソン専用のムーブメント。このような小さなこだわりの集積が、スミス社製でありながらベンソンとしての魅力を構築しているのでしょう。
英国らしさがスミス・ベンソンの魅力
決して煌びやかではありませんが、高い工作精度と美しいデザインが英国製らしい質実剛健という美学を語りかけてくるムーブメントであります。
裏蓋には整備履歴が刻まれています
裏蓋には数多くの時計士が刻み込んだ刻印が残されており、この時計の整備履歴の多さを物語っています。
裏蓋で分かるケース構造の違い
裏側を見ると金メッキはスナップオン式の裏蓋。そして、クロームメッキケースはスクリュー式の防水ケースであることが分かります。
クロームメッキのベンソン(2828B) 商品ページはこちら
防水ケースの利点
こちらはクロームメッキケースのベンソン。ケースはエイジングによりだいぶヴィンテージの美しい雰囲気が際立っていますが、さすがに、防水ケース。文字盤などの経年変化はほとんど見られません。
繊細なロゴが雰囲気を変える
シルバー調の文字盤に夜光塗料が施されたアラビア数字と、針はなんとブルースチールの青焼針に長短針は夜光塗料が…。ベンソンのロゴとその下にプリントされたLONDONの文字が気品を感じさせるデザインとなっています。
MADE IN ENGLANDの意味
こちらのモデルにも、ひと際小さいスモールセコンド文字盤の下にMADE IN ENGLANDの文字がプリントされています。当時の工業製品に記されたMADE IN ENGLANDとMADE IN Gt. BRITAINとの違いは大きく、後者の場合はスコットランド、アイルランド、そして、ウェールズ製であることを意味していることがほとんどで、イングランドとは明らかに差別化されていました。
真鍮の地肌が時を語る
厚みのあるクロームメッキケースは、真鍮のベースにメッキが施されていたため、ケースのエッジ部分などに擦れて真鍮の地肌が現れている部分があります。そんなところも数十年という年月が作り上げたヴィンテージウォッチならではの魅力と言えるでしょう。
裏蓋の形状の意味
スクリューバック式の防水ケースは専用工具で開閉します。竜頭の上に見える四角い窪みは専用工具をひっかけるためのもの。
機能美を誇る竜頭のデザイン
このベンソンの竜頭も機能性を重視した二重構造の防水ケース専用。趣きある機能美はグッドデザインと言えるでしょう。
凝った作りの長短針
ブルースチールハンズは光が当たると極めて美しいメタリックブルーに輝きます。長針の先端はレンズのカーブに合わせて湾曲した優美なデザイン。
使い込まれた道具だけが持つ美しい表情
ラグの先端は傷つきやすく真鍮の地金が露出しています。正しく使い込まれた道具だけが持つ美しい表情ではないでしょうか。
チラネジが魅力
やはり、ベンソンのロゴが入り、16石にチューニングされたベンソン純正のハイクウォリティー・ムーブメント。1950年代ならでは振り子の周囲に配されたチラネジが魅力!チラネジにより振子のスムーズな回転を保っています。
スイス製ではなく英国製であること
ベンソンのロゴとLONDONの文字。そして、ENGLANDがスイス製ではなく英国製ハイクウォリティー・ムーブメントの証!
オーナーへ向けた細かな配慮
ムーブメントの上に被さるプレートは防水ケースの裏蓋を閉め込む際にムーブメントを固定させるためのスプリング機能を有したスペーサー。振り子のアジャスト機構部分を切りかいてスペーサーを外さなくても歩度調整を可能にしています。当時、時計の歩度調整はオーナーの仕事でした!
デニソン社のアクアタイトは高性能の証
こちらは、防水ケースの裏蓋の内側。英国の名門ケースメーカー、デニソン社のアクアタイト。文字通り防水ケースの称号である。
100%英国製のベンソンの腕時計はスミス社製のベンソンだけ
ベンソン社はスミス以外にも戦前や1690年代以降に時計を数多くリリースしていましたが、そのほとんどはスイス製のムーブメントやケースをしようしていました。つまり、100%英国製のベンソンの腕時計はスミス社が作ったベンソンのみであると言えるのです。
ヴィンテージウォッチらしい外観にハイクウォリティーのギャップ
今回取り上げたベンソンは、共に文字盤やケースなどにエイジングが見られ、いわゆるヴィンテージウォッチらしい使い込まれた外観を持っています。しかし、その一方、ベンソンならではの16石というチューニングされたスーパークウォリティーのムーブメントを持ち、さらに、数多くの整備記録、そして、ウォッチギャラリー・ビッグベアーの適切な整備が施されています。そのため使い込まれた使用頻度の高かった個体であることとは裏腹に極めて良好な精度と信頼性が期待できるのです。このギャップは、多くのヴィンテージウォッチ好きの心をとらえることでしょう!