2022年4月12日火曜日

スミス専任時計師のウォッチギャラリー・ビッグベアー店主、大熊 康夫のブログ

~時計師の仕事場 #0007~

■ スミスがケースメーカーにデニソン社を選んだ理由 ■ 



「デニソン社でなければ作れなかった美しさ」

スミスの腕時計の中でも、名品と言われているモデルには、英国の老舗ケースメーカーのデニソン社製のケースが使われています。

道具としての腕時計の機能性を最大限に生かした、優れた設計思想、際立った精度を誇る工作技術、そして、それらに裏付けられた工芸品としての美しさが、デニソン・ケースには備わっています。

それは、スミス社が腕時計のケースに求めていた美学であり、デニソン・ケースに辿り着いた理由であるといえるでしょう。






「大胆なラグのデザインに込められたもの」

一見すると武骨なデザインに感じられる、このデラックスのラグ・デザインですが、時計の形に組み立てられ、ベルトが装着されることで、エルゴノミクスに基づいた、まるで、優しく腕を包み込むような極めて美しいデザインであることが分かります






「アール・デコの流れを汲む美しさ」

このデラックスは、1952年にリリースされた最初期の、スミス品番A211のマイナーチェンジ後の1953年モデルです

アール・デコの流れを巧みに取り入れた個性的なラグのデニソン・ケースは、優しい色調の趣あるデュオトーン文字盤の美しさを、より際立たせている秀逸なデザインと言えます。







「裏蓋には、老舗メーカーを感じさせるロゴが

極めて工作精度の高い、このケースのメーカー名は、裏蓋を開けると、その内側に刻印されています。

DENNISONの社名ロゴとMADE IN ENGLANDの文字が誇らしく刻まれ、それらは、1950年代に造られた英国製品であることの絶対的な品質の良さと、デニソン・ケースならではの美しさの証なのです。








「オリジナルの竜頭が物語るもの

このモデルは、デラックスが登場した1952年と1954年の約3年間のみ生産されましたが、この短期間にマイナーチェンジが行われています。

それは、竜頭の形状のみで、1952年モデルには1215から引き継いだ、表面に段付きのあるデザインが施されていましたが、1953年では、それがスムーズな曲面に変更されています。

この個体にはオリジナルの竜頭が装着されているため、また、表面には、このデラックスの使用頻度に見合った、わずかなエイジングが見られるため、このデラックスが1953年モデルであると言って問題ないでしょう。

竜頭は、レンズやベルトなどと同様に外装部品の消耗品とされており、その消耗品である竜頭が純正品であることは、この個体のオリジナリティーの高さと共に、使用頻度の少なさと大切に使用されていたことを物語っています。







「極めて状態の良い文字盤

ケースより、ムーブメントを取り出し、文字盤を眺めると、コンディションを厳密に確認することができます。

表面には70年近い時の流れによる、わずかなエイジングは見られますが、その影響は最小限であり、また、不自然なところがない極めて美しく、3針を含め完璧な純正文字盤であることが分かります。







「見ることの少ないムーブメントの文字盤側

あまり目にすることのない、ムーブメントの文字盤側ですが、裏蓋側と比較するとシンプルでフラットな印象ですね。

これは、ムーブメントの剛性を最大限に保つために不必要な肉抜き加工などを行っていないためで、英国的な質実剛健さの現れであると言えます。

ムーブメント右側に黒っぽく見えるプレート状のパーツが、スミスの欠陥部品と言われているボルトスプリングで、ビッグベアーの対策部品に交換されています。







「1950年代らしいチラネジ付きの振り子

ムーブメントから振り子アッセンブリーを外した裏側部分。振り子の軸先端部分の細さとその横に装着されたルビーの透明感がお分かりいただけるでしょう。

他のルビーは軸受けなどに対で使用されていますが、振り子のルビーはひとつだけですので、ほとんどのムーブメントの石の数は15石や17石など奇数になります。






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