2022年6月30日木曜日

   スミス専任時計師のウォッチギャラリー・ビッグベアー店主、大熊 康夫のブログ

~時計師の仕事場 #0017~

「時が作った美しい表情とスミスの底力」 

1950年代前期の15石懐中時計




「文字盤の材質が生み出した表情」

戦前における、懐中時計の文字盤のほとんどは、瀬戸物のような材質で出来ており、いつまでも美しい表面を保つという特性がありましたが、反面、衝撃が加わるとヘアラインと呼ばれているクラックが文字盤上を走り、強い衝撃が加わった際には文字盤の周辺部などが大きく欠落してしまうことも多々あり、エイジングの味であったとともに、デメリットであるとも捉えられていました。

そのため、戦後には改良された文字盤が多く使用されるようになり、この懐中時計の文字盤も金属のベースに厚みのある塗装が施されたしっかりとした強度を保った、衝撃に強い文字盤に変わりました。





「卵の殻のひびのような美しいパティナ」

戦後の衝撃に強くなったスミス社の文字盤ですが、実は経年により、上の写真のような細かいひび割れが発生するエイジングが稀に見られるようになり、それは、卵の殻をコツコツと割った時のひびのような極めて細かく繊細な亀裂で、ほぼ全体に均一に表れるというものでした。

そのため、戦前のヘアライン同様に英国では美しいエイジングと捉えて、特にこの個体のように細かくひび割れ、それらのパーツが脱落していないものを「ナイス・パティナ」などと呼び珍重するといった、英国らしい習慣が生まれています。

さらに、このパティナが生じた文字盤は、そのまま使い続けると、衝撃などで表面のパーツが脱落することもあるため、防止策として特殊なコーティングを施し定着させる対策が行われています。

もちろん、この個体についてもコーティングが施されていますので、よほどの大きな衝撃が加わらない限り現在のパティナは、美しく保持されると言う訳です。






「ニッケル無垢デニソン・カップレル・ケースの質感」

このモデルに使われているニッケル・ケースは、英国の老舗ケースメーカー、デニソン社製の「カップレル」という製品です。

細部の造形にまで、気を配られた極めて美しいデザインは、デニソン社らしい質実剛健な高い機能性を重視した機能美と言えるもので、それらはヴェゼルや裏蓋の外周に盛られたリブ状のラインや竜頭の独特な形状に現れています。

そんな機能美と言えるカップレルの特徴は、手にした時に、しっかりとしたグリップさせる力を生み出したり、竜頭の巻き上げの際のしっかりとした巻心地を生んでいます。

また、ニッケル無垢という当時ならではの材質感は、クロームメッキよりも温かみのあるややイエロー味を帯びた色を感じさせ、手に触れた時の親しみやすさにつながる効果となっています。

さらに、ニッケルの無垢素材であることは、使用キズなどにも強く、表面がはげ落ちることのない優位性は、金や銀などの無垢素材にも通ずる、普遍性を感じながら使い続けることが出来るという、所有感を味わう楽しみがあります。






「コート・ド・ジュネーブ加工が高品質の貫録を生む」

ニッケル無垢製の裏蓋を開けると、真鍮のベースメタルにニッケルメッキが施された美しいムーブメントを眺めることが出来ます。

そこには、コート・ド・ジュネーブ加工が施されており、実際には平らな表面に繊細な曲線を刻み込むことで、まるで、なだらかな凹凸があるように見えるスイスの高級時計に多く見られる装飾が施されています。

コート・ド・ジュネーブをこの戦後初期の懐中時計のムーブメントに施していたことから、いかにスミス社がこのムーブメントへ力を注いでいたかを知ることが出来ます。






「ムーブメントの各部品はスイス品質で製造されていた」

ニッケルメッキが施された美しいムーブメントを分解すると、その剛性の極めて高いフレーム設計と、精度に関わるギアや軸の工作精度は、当時の世界水準を満たしていました。

スイスの名門時計メーカーであるジャガールクルトから、ロバート・レノア氏を引き抜き、英国伝統の質実剛健なスミスらしいデザイン美学と、世界のトップレベルであるスイスのテクノロジーとが結びつき、唯一無二の世界水準のムーブメントが誕生しました。






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2022年6月23日木曜日

   スミス専任時計師のウォッチギャラリー・ビッグベアー店主、大熊 康夫のブログ

~時計師の仕事場 #0016~

「スミスが製作したJ.W.ベンソンの腕時計」 

1950年代前期のセンターセコンド




 「J.W.ベンソンとは」

J. W. Benson (ジェームス・ウィリアム・ベンソン) は1840年代創業のロンドンはオールド・ボンド・ストリートに、そして、晩年はラドゥゲイト・ヒルにショールームを構えていた老舗ジュエラーです。惜しくも1985年頃に店を閉めていますが、彼の白洲次郎氏が愛用していたこともあり、著名な実業家や政治家にも、その愛好家が多いことで知られています。

ベンソン社の時計は主にスイスで生産されていましたが、英国市場のほとんどの製品はチェルトナムに工場を持つスミス社により手がけられており、名実ともに英国製であると言えます。近年では純英国製のベンソンとして、特にスミス社のモデルが注目されています。





「センターセコンドであること」

この時計が生産されたのは、ムーブメントのシリアル・ナンバーから、1950年代前期と考えられ、その当時における腕時計の秒針は、ほとんどが、6時の位置に秒針ダイアルのあるスモールセコンド・モデルでした。

ベンソンにおいても、同じことが言え、特にスミス社が生産した英国製のベンソンについては、このベンソンのように秒針の軸が時計のセンターに位置するセンターセコンド・モデルはまずお目にかかることはありませんでした。

その理由は、現代では当たり前のセンターセコンドが、当時は複雑な構造であったからなのです。





「ベンソンと共に進化したスミス」

スミスが戦後間もなくにリリースした、初の英国製、高品質腕時計である1215(トゥエルブ・フィフティーン)は、12リーネ・サイズの外径と、15石のルビーを贅沢に使用したことから名付けられたスモールセコンド・モデルでした。

いわゆるスモセコの1215ムーブメントを、センターセコンド・ムーブメントへとコンバージョンしたのが、このベンソンの刻印が施された27・CS(センターセコンドの略)キャリバーでした。

1940年代末期よりベンソン社とスミス社との関係は密接となり、スミス社はベンソン社からの要望を数多く採用していました。

このベンソンのセンターセコンド・ムーブメントの開発以外にも、15石のCタイプ・スモセコ・ムーブメントへ、ルビーの数を増やし、16石や18石としたりと、根本的なコンバージョンを行っており、同時にスミスの自社製品へのフィードバックも積極的に実行しています。

それらは、フラッグシップ・モデルへのグレードアップにも貢献しているため、ベンソン社が品質向上へ傾けていた情熱は、スミス自身の進化と共にあったと言えるでしょう。




「センターセコンドのメカニズム」

センターセコンドは、スモセコよりも見た目がシンプルであるため、メカニズムについても、スモセコよりも簡単な構造であるように思われがちです。

しかし、実際には、6時の位置に秒針の文字盤があるスモセコの方が構造的にはシンプルで、最もベーシックな設計から生まれたデザインであると言えます。

すなわち、センターセコンドは上の写真のようにベーシックなスモセコのムーブメントにギアをふたつ追加することでギアの階層を2階建てとし、6時の位置にあった秒針をセンターへ移しています。

ムーブメント中央に見える小さなギアが、センターセコンドの秒針を動作させており、その軸が、ムーブメントの反対側(文字盤側)へ伸びて、秒針の軸となっています。

つまり、このことに伴いムーブメントはわずかに厚みを増し、ルビーも2石増やされていると言う訳です。




「製造年と異なる裏蓋の年号の理由」

このベンソンの製造年は、上記の解説にもあるように、1950年代前期であると考えられますが、裏蓋に刻まれた年号は1960年であり、5年以上の隔たりがあります。

1930ー1960の意味することは、1930年より30年間勤続した会社から、1960年に退職の記念として贈られた時計であるということです。

つまり、このベンソンを社員へ贈った会社は大企業ではなく、毎年、百人単位の退職者がある訳ではなく、1950年代前期に、プレゼンテーション・ウォッチとして、数年分として、まとまった数の、このベンソン社製腕時計を入手して、毎年、退職者へ送っていたのではないかと考えられます。





「新品同様と言えるデッドストックのようなコンディション

上の写真は、オーバーホールの際に撮影した、このベンソンのムーブメントの分解画像ですが、全てにおいて美しく、また、過去のオーバーホール履歴は、英国で一度のみでであることもあり、いかに、このベンソンがの使用頻度が少なかったかが分かります。





「光の当たり方で様々な表情を見せる文字盤

アルミの地肌を活かしつつも、ヘアライン加工を駆使することで、質感の違いにより表情が様々に変化する、極めて魅力的で美しい文字盤を作り上げられています。

特に、ローマ数字がプリントされているリング状のパートには、同心円の極めて繊細なヘアライン加工が施されており、光の入射角で、濃淡が生れ光がサークル状に走り、極めて美しい奥深さを味わうことが出来ます。


また、光による演出は長短針に施されたブルースチールの青焼加工の効果も同時に味わうことが出来、スミス社の技術力と共に、ベンソンの美意識の高さをご堪能いただくことができるモデルであると言えます。


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2022年6月16日木曜日

「ようこそ、スミスの世界へ」

~スミス選びに迷ったら


このページへ辿り着いたあなたは、「長く使って行ける」そして、「本当に自分の好みに合った」スミスを手に入れたいと考えていることでしょう。

英国にて厳選したスミスに、専門店ならではのノウハウと新品部品とを注ぎ込み、新品当時と変わらぬ性能と信頼性を甦らせたスミスの中から、一生を共に出来るスミスを選んでいただくために、良き道案内となれたらと願っております。



ビッグベアーのスミスについて 店主、時計師:大熊 康夫

私が、初めてスミスを英国のアンティーク時計店で購入したのは、1989年のことでした。そのスミスは、1946年製の銀無垢1215モデルで、当時、乗っていた1950年代のモーリスと共に、英国の旅の相棒となっていました。

そして、英国の古い機械は、クルマも時計も同じように、しっかり整備してあれば古くても、いつまでも実用品として使えることを知ったのです。

帰国後、日本にはたくさんのスミスが存在しているのに、そのほとんどは本来の性能ではなく、また、スミスを本来の状態へ修理できる時計店もなかったのです。

そこで、スミス専門店として、万全な体制と共に生まれたのが、ウォッチギャラリー・ビッグベアーでした。

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スミスが「ヴィンテージ・ウォッチである」ということ

ヴィンテージ・ウォッチであるスミスは、半世紀以上前に作られた過去の製品であるため、スミスの全てのモデルから欲しいモデルを選べるわけではありません。


しかし、ウォッチギャラリー・ビッグベアーのセレクションは、スミスに携わって約20年の経験から、魅力あるモデルや、本当に良いコンディションの個体を厳選しています。

さらに、ゼンマイなどの消耗品のみならず、問題のある部品を徹底的に交換するとともに、専門店ならではの経験とノウハウを生かした整備を行い、工場出荷時の精度と耐久性を甦らせているため、どれを選んでも、スミス本来の魅力を味わうことが出来ます。

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ビッグベアーのスミスは「3年間の動作保証付」で販売

時計メーカーとして現存しないスミス社の製品を、発売当時と変わらぬ精度と、それ以上の信頼性と共に販売しているのが、ウォッチギャラリー・ビッグベアーのスミスです。

※当時スミス・デラックスなどの高級時計には、欠陥部品がありましたが、ビッグベアーでは、日本国内の時計部品メーカーと共同開発した、対策部品を製作し搭載しているため、長期保証を付けられるようになりました。


当時のスミスは、1年間保証でしたが、ビッグベアーでは、現代の時計と同等、または、それ以上といえる、
3年間動作保証(戦後の腕時計)を付けて販売しています。


その結果、ヴィンテージ・ウォッチに対する不安やハードルの高さを軽減し、より多く方々に、新品の製品をお使いいただくような気持で親しまれています。

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スミスの腕時計選びで、迷わないために


趣味の製品を選ぶには「直観力」が大切

趣味の製品であるスミスを選ぶことは、現代の製品や実用品を選ぶのとは大きく異なり、半世紀以上前の英国を訪れるような、偶然や運命を感じさせる、理屈では語りつくせない、直観的な出合いであると言えるでしょう。



「直観を信じる」ためには

スミスをひと目見た時の直観や第一印象はとても重要。しかし直観を信じるには、信じられる直観であるための裏付けが必要となります。

例えば、長年、ヴィンテージ・アイテムに親しみ、幾つもの出会いを経験して来た方であれば、一目見た時のインスピレーションで選んでも、それは正解と言えるでしょうし、そこに迷いはないはずですね。

しかし、ヴィンテージ・アイテム初心者であれば、スミス選びの直観を養う第一歩、それは、間違いなくスミスの知識を蓄えることと言えるでしょう。






迷いの原因のほとんどは「スミスを良く知らない」こと

そもそも、スミスは当時、日本に正規輸入されておらず、スミスの情報が、ほぼ皆無であったため、それこそ約20年前には、スミスを詳しく知ることが極めて難しいことでした。

つまり、日本人にとって、スミスはいわば未知の存在であり知識がないのは当たり前のことなのです。

雑誌やインターネットなどで、スミスの魅力に惹き付けられたとしても、スミスをよく知らないまま、スミスを選んでしまえば、迷いが生じることは多々あるでしょうし、また、本当に欲しいスミスに辿り着ける確率は低いと言えます。

まずは、スミスのこと、そのモデルのこと、そして、その個体のことを良く知っていただくことが重要なのです。




特に手巻のヴィンテージ・ウォッチを使うのが初めてという方には、現代の一般的な電池を使う時計とは、構造や、使い方、そして、楽しみが別次元ですので、特に知っていただきたいところです。

★手巻腕時計の使い方はこちらから


スミスに対する知識が増すほどに「特徴や魅力が明確に」なる



▲9金無垢ケースならではの、とろけるような上質な表情は極めて魅力的


ヴィンテージ・ウォッチには、その時代ならではのケース材質があり、それらを知ることで、特徴が分かり、自分の好きなケース材質が決まります。


▲ひと目で分かるヴィンテージらしさが人気の、6時の位置に秒針文字盤が位置するスモールセコンド(写真左)そのシンプルな見た目を実現するため、スモールセコンドから進化した複雑な内部機構を備えるセンターセコンド。先端にキャンディー塗装が施された「レッドアロー秒針」など、センターセコンドならではのデザイン上の魅力もある(写真右)


また、文字盤には、大きく分けて秒針の位置の違いで、センターセコンドとスモールセコンドの2つのパターンがあり、レディースには、秒針のないモデルもあります。



そんな様々な、特徴を知っていただくために、まずは、気になるモデルの商品ページをじっくりとご覧いただき、そのモデルの特徴を把握して、自分にとっての魅力を明確にすることが大切です。

ビッグベアーの各商品ページには、様々なスミスに対する情報が網羅されています。文章、画像、そして、動画で、様々な視点からの魅力を知っていただくことで、スミスを見る目、つまり、直観力を養って行けるというわ訳です。




「駄作がない」ところがスミスの魔力

いかがですか、スミス選びに迷わないために、各モデルの特徴や魅力を明確にし、その上で、直観的にお気に入りのスミスを見つけていただければと思います。

ただ、スミスには、駄作と言われるモデルがほとんど無く、それぞれにしっかりとした魅力があるため、あれこれと欲しくなってしまうのも事実です。

逆に考えると、それは、お好みでどれを選んでいただいても、当店のスミスであれば、失敗はないということなります。





最後に、スミス選びは「消去法」が有効

スミスの「駄作がない」という特徴をうまく利用した選び方としては、消去法が有効であると言えます。まず、気になるスミスを、ご予算内で選んでいただきます。

例えば4本の好みのスミスを選び出したとします。その中で、このモデルの、「この部分は好きでない」または、「このモデルは今でなくても良い」などのデメリットや妥協点を探して、消去法で絞り込んで行くという方法です。

それでも、1本に決められなければ、お問い合わせフォームやお電話で、ご相談ください。きっとお力になれることと存じます。

お問い合わせフォームはこちら
電話番号:0436-25-1232
(ウォッチギャラリー・ビッグベアー)

それでは、貴方にピッタリのスミスを手に入れて、楽しいヴィンテージ・ライフをお楽しみください。


2022年5月29日日曜日

   スミス専任時計師のウォッチギャラリー・ビッグベアー店主、大熊 康夫のブログ

~時計師の仕事場 #0015~

「表情を大きく変えるデュオトーン・ダイアル」 

1950年代前期のデラックス 



「光の当たり方で表情が変わる文字盤」

ほぼ完璧と言える新品当時の状態をキープしている文字盤。どちらも1950年代前期に生産された極めて美しいデュオトーン・ダイアルだが、実はこのふたつの文字盤は同じ個体を撮影したもの。

光の当たり方で、見事にデュオトーン(2トーン)の濃淡が反転しているのが分かります。また、この濃淡が反転するまでの過程には中間調がシームレスに存在し、そのデュオトーンがほぼ一色に見える瞬間も存在する。

さらに、これらのデュオトーンのコントラストの強弱も、光の強さや入射角により現れ、実に奥深い表情を見せてくれる文字盤であると言えます。



「表情の違いを楽しむ」



最もこのモデルらしいニュートラルな表情





ほぼデュオトーンでなくなったモノトーンに見える文字盤





反転して中央が濃くなった状態



表情の変化は、これら3パターンだけではなく、それぞれの中間調や、朝日、夕陽、人工光など光源の条件により無数の表情を楽しむことが出来るのです。

デュオトーン・ダイアルはデラックスの中でも、特に趣のある味わい深いモデルであると言えるでしょう。


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2022年5月21日土曜日

   スミス専任時計師のウォッチギャラリー・ビッグベアー店主、大熊 康夫のブログ

~時計師の仕事場 #0014~

「風格ある佇まいの銀時計」 

スミスが英国生産した初の懐中時計 



「程よく使われたニアミント・コンディション」

英国デニソン社製の最上級銀無垢ケースの渋い輝き、そして、アイボリーに色づいた盤面に伝統を感じさせるローマ数字が並ぶ文字盤に、青焼針が色を差す。

それらは、製造後、75年以上の歳月を経て来たことで纏った新品以上に魅力的な佇まいであると言えるでしょう。




「コート・ド・ジュネーブ」

スミス社が、スイス・ジャガールクルトの技術を投入し設計、生産した15石ムーブメントには、腕時計用と懐中時計用の両方にスイス製の超高級時計などに使われている"コート・ド・ジュネーブ"加工が施されています。

コート・ド・ジュネーブ加工は、光の反射率を利用した巧みな装飾で、ムーブメント表面は、山状になだらかな曲面を描いているように見えます。

しかし、実は目の錯覚を利用しており、ムーブメントの表面は平で、極めて繊細な曲線が彫り込まれているのみなのです。





「ニッケルメッキが施されたムーブメント」

表面にコート・ド・ジュネーブ加工が施されたムーブメントには、真鍮ベースにニッケル・メッキが施されており内部も美しく仕上げてあります

工作精度の高い、15石ムーブメントは5ビートであることもあり高い歩度と耐久性を誇っています。





「生産は英国チェルトナム工場」

このモデルは、1946年に、スミス初の英国は、イングランドのチェルトナムに建設された、スミス自社工場にて製造されていました。

4ビートの懐中時計は、生産コストを抑えるためウェールズのスミス自社工場にて生産されていましたが、高級機である5ビートは、スイス・ジャガールクルト社の設計技師ロバート・レノア氏をスミス社へ招き入れプロジェクトを立ち上げ、開発から製造までを一貫してイングランドで行うことに成功しました。





「趣ある美しい佇まい」

この個体は、決して、新品同様の美しさではありませんが、程よいエイジングは、大切に長年使用されてきたことを物語る、とても趣ある佇まいを作りあげています。

文字盤のアイボリー・カラーや銀無垢ケースの酸化、そして、使用キズなどによる、全体的な味がこのモデルにとっての最大の魅力となっています。


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2022年5月6日金曜日

 スミス専任時計師のウォッチギャラリー・ビッグベアー店主、大熊 康夫のブログ

~時計師の仕事場 #0012~

「英国らしさとスミスらしさがここにある」 

1955年デュオトーン・ダイアル・デラックス 


「すべてが控え目で上品な佇まい」

スミス・デラックスの魅力は過度に主張することなく、上質さと堅実さ、そして、英国らしい控え目なデザインと材質であると言えるでしょう。

9金無垢ケースを使用したフラッグシップ・モデルは、特にその傾向が顕著で、上質な金無垢の中でも、派手さのある輝きを主張した18金ではなく、9金を採用するところは、英国的であるところです。




「裏蓋の内側には、ホールマークと共に、多数の整備履歴が」

最も大きな刻印である菱形にBWCとかかれているのは、ホールマークの中でも、メーカーズ・マークと呼ばれているもので、BRITISH WATCH COMPANYというケースメーカーのマークです。

その上の四つの刻印は、このケースをBWC社が製造した際に、エジンバラの税務署が施させたもので、9と・375は共にケースの材質が9金であることを表し、中央左側のお城のマークはエジンバラを、Zはイヤーマークといい1955年を表しています。

つまり、ホールマークは、本来、製造年号を知るために刻印されたものではなく、金、銀、そして、プラチナ製品の課税するため、その製品を製造した際に納税したことの証として、税務署が、暗号化した年号と共に金の含有率を打刻したということなのです。

また、この裏蓋の内側には、多数の数字などが刻み込まれていますが、これらは時計師が整備した際に施したもので、その時計師であれば、その履歴が分かると言う訳です。




「ムーブメントのパーツの美しさから分かること」

数多くの整備履歴のある、ムーブメントの多くは、工具キズと言われる分解、組立を繰り返したことによるキズが見られるものですが、このムーブメントのパーツには、それらが、ほとんど見られない、極めて良い状態を保っています。

そのことから、分かるのは、手を加えた時計師が一流の仕事をしていたことに他なりません。

ビッグベアーでは、スプリングなどの消耗部品の新品交換や、欠陥部品の対策部品交換を含む、スミス専門店ならではの徹底したオーバーホールを行っていますので、工場出荷時の精度と、それ以上の耐久性を備えたムーブメントへと甦らせています。





「見ごたえのある1950年代の17石」

1950年代の17石ムーブメントは、センターセコンド化したことで増えるギアや軸受けを支えるフレームの増設により、15石とは異なった見ごたえのある設計となっています。

さらに、振り子のチラネジの存在や、骨格部分の真鍮部材に施されたフロステッド・ギルト加工などにより英国的な機能美を感じさせる外観に仕上がっています。



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2022年5月2日月曜日

 

スミス専任時計師のウォッチギャラリー・ビッグベアー店主、大熊 康夫のブログ

~時計師の仕事場 #0009~

■ ロンドン・ノース・イースタン・レイルウェイズの懐中時計 ■ 
デッドストック・ムーブメント搭載!



※この画像の汽車はスミス社発行の資料から抜粋したもので、実際にLNERにて使用されていたかは不明です



「1940年代の最初期モデル」

今回、ご紹介する4ビート懐中時計は、戦後間もなくから1940年代に生産され、ロンドン&ノース・イースタン・レイルウェイズのオフィシャル・ポケットウォッチとして使用されていたモデルです。また、4ビート・モデルとしては、最初期モデルにあたる、ニッケルメッキ・ケースの極めてレアな個体です。




「後から入れられた文字盤のLNER」

頭文字のLNERは、ロンドン・ノース・イースタン・レイルウェイズを意味しており、製品製造後に手描きにて入れられたロゴと考えられます。

この4ビート懐中時計はケースの材質やデザインが1950年代以降のクロームメッキ・モデルとは全く異なっており、真鍮にニッケルメッキが施された温かみのある、ややイエローがかった色彩と細部の趣のあるデザインには、特別な造形美を感じさせます。

また、針のデザインも特徴的で青焼針の質感もブルーの輝きが強く、その個性的なフォルムと共に初期モノならではの雰囲気が漂っています。




「裏蓋のロゴとシリアル・ナンバー」

ベゼルやケース本体などと同様の、真鍮にニッケルメッキが施された裏蓋には、ロンドン&ノース・イースタン・レイルウェイズを示す「L.N.E.R.」と、シリアル・ナンバーである「3910」の刻印が施されており、この個体がオリジナルであることを示しています。

表面の金色に見える部分は、ポケット内で擦れ、ニッケルメッキが薄くなり真鍮のベースメタルが露出したものです。




「操作系の部品も1950年代のクロームメッキ製とは別物」

竜頭、ネック、そして、リングといった部品も、1950年代のクロームメッキ製とは別物で、造形やメッキなど初期モノならではの味わいを感じ取ることが出来る魅力的な部分です。




「鮮やかに輝く青焼針」

極めて個性的なデザインの長短針は、鮮やかなブルーに輝きLNERのロゴと共に、この時計の個性であるといえるでしょう。

製造後、70年以上が経過したことによる自然な経年変化は、新品交換されているレンズとムーブメント以外は、すべてにおいて統一感のある魅力的な佇まいにエイジングしています。




「隅々までがオリジナルであることが、この個体の魅力」

経年によるエイジングは、当然見られますが、どこに目を向けても、オリジナルの部品であることが、この個体の魅力であると言えるでしょう。





「温かみのあるニッケルメッキの魅力」

戦前のクルマやバイクのメッキに多く使われていた、ニッケリングと呼ばれるニッケルメッキは、クロームメッキよりもやや黄色味が強く、温かみを感じさせる魅力的な色彩であり、この時代ならではの上質な素材感である言えます。




「酷使されたムーブメントは新品へ載せ替えました」

この個体が、英国よりビッグベアーへ届いた時、すでにオリジナルのムーブメントは、1950年代のものに載せ替えられており、そのムーブメントも不動状態となっていました。

そのため、ビッグベアーでは、1960年代末期に生産されたデッドストックムーブメントをオーバーホールし、完璧な状態に整備を行い搭載しました。




「1940年代のレアモデルを新品時の精度と耐久性でご使用いただけます」

外観は、アクリル製レンズ以外は当時の純正部品で構成されているため、その佇まいは、まさに、正しく使われて来た道具としての魅力に溢れています。

しかし、ムーブメントは、デッドストックをオーバーホールした完璧な状態で搭載されているため、日常的に本来の性能を楽しんでいただけるコンディションに仕上がっています。


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