2022年7月3日日曜日

    スミス専任時計師のウォッチギャラリー・ビッグベアー店主、大熊 康夫のブログ

~時計師の仕事場 #0018~

「19世紀の雰囲気を残す稀少な懐中時計」 

1950年代前期の15石懐中時計


「英国の伝統を受け継ぐ希少モデル」

このスミスを手にすると、頭の中で、1870年代の、竜頭ではなくキーでゼンマイを巻き上げるアンティーク・ポケット・ウォッチと、イメージが重なるように感じます。

その理由は、ケースと針が共に金であり、スミスのロゴだけのシンプルな文字盤であることに加え、文字盤全体に美しいヘアライン(繊細なクラック)が走っているからでしょう。

このスミスは、そんな英国の伝統を受け継いだアンティーク・ウォッチに感じられる美学が込められた稀少モデルなのです。






「細部にまで美しさを追求した造形がある」

このケースには、どこに目を向けても極めて繊細で美しいデザインで形作られた、最上級の工作技術とデザインとが注ぎ込まれています。

例えばアルバート・チェーンを付けるためのリング状の金具は、頂点から終盤までは太く、左右の先端部分に向かい徐々に細くなり、また、そのラインについても、左右対称ではありますが、曲率は常に変化しており、その美しさには目を見張るものがあります。






「当時、10年保証が付いていたケース」

上の画像は、ケース裏蓋の内側を撮影したもので10年間の保証付であることが美しい筆記体で刻まれています。

現代であっても、ケースに10年間の保証が付く例はまずなく、まして、1950年代には極めて異例であったはずで、いかに、剛性や耐久性を重視したデザインであったかを、お分かりいただけることでしょう。

製造後約70年が経過した現在においても、その優れた剛性や耐久性は衰えておらず、フラッグシップ・モデルに相応しいスペックであると言えます。





「時が描いた文字盤のエイジングはこの時計の美しい個性」

エイジングとは経年変化であり、それを一般的にはデメリットとして捉える傾向であると言えるでしょう。

しかし、稀にそのエイジングが、新品時における真っさらな姿よりも、美しいと感じさせ、その時計の個性になり得る場合がります。

この懐中時計の文字盤においては、正にその類稀なエイジングであり、この時計の唯一無二かつ大きな魅力であると言えるでしょう。






「英国製にこだわったスミス社の理念」

文字盤の下部には、MADE IN ENGLAND の文字が誇らしくプリントされており、この懐中時計が英国、イングランド生産であることを示しています。

ご存じのように、英国はユナイテッド・キングダムとも呼ばれ、イングランド、スコットランド、ウェールズ、そして、北アイルランドの連合国なのです。

つまり、文字盤に GREAT BRITAIN ではなく、ENGLAND とプリントされていることには、とても深い意味があり、単に製造された工場の場所を表しているだけではなく、しっかりとした技術と材料を使用して造られた、上質な製品であることを示しているのです。





「長く使える道具としての懐中時計」

10年間の保証が付いていたイングランド製の上質なエクリプス・ケース、やはり、イングランド製の、美しい個性を放つ唯一無二のエイジングを纏った文字盤、そして、英国はイングランドのチェルトナム工場で製造されたムーブメントであることで、MADE IN ENGLAND であると誇れる、この懐中時計は、長く使える優秀な道具として生を受けました。

簡単に手に入り、やがて買い替えられてしまうような製品とは異なる、この懐中時計は、本物の味わい深いデザインと、いつまでも、その機能を保ち続けられる優れた道具として、その価値をお分かりいただける方に使っていただきたいアイテムなのです。

この懐中時計には、スミス純正のデッドストック、アルバート・チェーンが付属いたします。

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