スミス専任時計師のウォッチギャラリービッグベアー
店主大熊 康夫のブログ
スミスの魅力②
「スミスの石(ルビー)の意味とは?」
耐久性と美しさの両立
機械式腕時計と石(ルビー)との関係
機械式腕時計の高性能モデルには、ムーブメントの然るべき場所に石(ルビー)が備わっています。15石や17石といったようにムーブメントの機能やグレードなどにより石の数は変わります。
では、なぜムーブメントに高価なルビーが使用されているのかと疑問に思われることでしょう。その理由は時計に使われている幾つもの歯車や振り子などの軸は鉄でできていますが、その軸を支える軸受けは鉄よりも硬い素材を使用しなければ摩耗してしまうため鉄よりも硬いルビーが使われているというわけです。
また、歯車などの軸とルビーの軸受けが接する部分に時計用に作られた特殊なオイルを注油することで、オイルの硬化が始まる5年間はほとんど摩耗することなく動作し続けます。
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左がスモセコの15石ムーブメント、右がセンターセコンドの17石ムーブメント。 意外にも、見た目がシンプルなセンターセコンドの方が、見た目が複雑なスモセコよりも ムーブメントの構造は複雑なのです。 |
15石と17石の違い
スミスのムーブメントにルビーが使用されていることをお分かりいただけたところで、次にルビーの数の違いについて説明いたしましょう。
まずは、デラックスやアストラルなどに多く見られるベーシックなムーブメントを例に15石と17石の違いについて解説いたします。
そもそも、戦前の懐中時計や戦後間もなくの腕時計のムーブメントは、ほとんどが6時の位置に秒針のダイアルがあるスモセコ(スモールセコンドダイアル)形式で石の数も15石が一般的です。その理由は、ムーブメントを最もシンプルに設計すると6時の位置に秒針の軸を配置することが理想的であり、その際に必要な石の数が15石となるからなのです。
そして、スモセコの位置をセンターに移動してセンターセコンドにするためには、ギアをひとつ追加して秒針の軸を中心へ移動する必要があります。そのため、増えた軸用の軸受けをふたつ増やさなければならず、17石となるわけです。
つまり、意外にも、見た目がシンプルなセンターセコンドの方が、見た目が複雑なスモセコよりもムーブメントの構造は複雑なのです。
石の数が奇数となる疑問
ここまで、根気よく読み進めていただいた方の頭の中には、恐らく腑に落ちない疑問が生まれているのではないでしょうか。
つまり、ルビーが軸受けの部品なのであれば、1本の軸に対して必ず2個のルビーが必要になるはずで、奇数となるのはなぜかという疑問が生まれるのは当然といえます。
確かにルビーは軸受けに使用されていますが、軸受け以外にも上の写真のように振り子の中心にひとつだけ使用されている箇所があります。このルビーは、ゼンマイの動力が回転運動としていくつかのギアに伝わり、ガンギ車とアンクルという部品により往復運動に変換され最終的にアンクルのアームにより振り子のルビーが左右から交互に叩かれることで、振り子が左右へ規則正しく回転し続けます。
この振り子に装着されたひとつだけのルビーこそが、ルビーの数が奇数となる鍵を握っているのです。
耐久性と美しさの両立
スミスに限らず、高性能な機械式時計のムーブメントには古くから高価なルビーが使用されており、その目的は前述しましたように耐久性を高めることですが、同時に美しさをも併せ持ち、その価値を高めているといえます。
特に上の写真にあるような、ショックプルーフ機能付きの振り子には、2分割されたルビーを十字に形どられたスプリングが支え、落下などの際に振り子の軸の破損しないように衝撃から守っており、その美しさは格別といえるでしょう。
スミスの特徴ともいえる機械式手巻腕時計のメカニズムの優秀さと美しいさとを深く知っていただくことで、さらにスミスの魅力を感じていただけましたら幸いです。
スミスの優れたムーブメントへも目を向けていただきたい
スミスが販売されていた当時、高性能腕時計といえばスイス製を思い浮かべることが多い時代でしたが、実はスミス・デラックスやアストラルなどに代表される高性能腕時計には、世界水準の高性能ムーブメントが搭載されていました。
しかも、それらはイングランドのチェルトナムにあったスミス自社工場で製造されていた正真正銘の英国製であり、英国的で質実剛健な外観や高性能かつ整備を怠らなければ半永久的に使用可能というブリティッシュスピリッツが隅々にまで宿っています。
スミスの特徴ともいえる機械式手巻腕時計のメカニズムの優秀さと美しいさとを深く知っていただくことで、さらにスミスの魅力を感じていただけましたら幸いです。