2026年4月5日日曜日

 英国スミス社製時計の専門店 ウォッチギャラリービッグベアー

スミス専任時計師の店主による
"スミスのブログ"

新入荷のスミス❺
「デラックス以前の銘品
 ~1950年代初頭の1215が入荷!~


個性際立つ2本

今回、入荷したのは、戦後まもなく英国イングランドの田舎町チェルトナムに設立されたスミス社初の自社工場で、1950年代初頭に生産された2本の1215(トゥエルブフィフティーン)モデルの最終型です。

異なった個性を纏った、2本のスミス1215は、デラックス発売の直前に生産されており、共に熟成され、1215の問題点が払拭されたムーブメントが搭載された理想的な個体です。



Made in Englandは1215から

上の写真のムーブメントは1215(トゥエルブフィフティーン)モデルの最終型に搭載されていた1215 Cタイプと呼ばれるキャリバーです。スミス初の英国製ムーブメントの熟成モデルであり、入荷した2本にも搭載されています。そのため、デラックスに搭載されたものと同じ品質と言えます。

このムーブメントは、前述の通りキャリバー名を1215 Cタイプといい、英国のイングランド・チェルトナム自社工場製であるためムーブメントにもMade in Englandの文字が誇らしく刻まれています。



文字盤にも誇らしくMade in Englandの文字が…。


の良い方はお気づきのことと思いますが、デラックス以前の英国イングランド製スミス腕時計の文字盤には、SMITHSというブランド名はあってもモデル名はありません。

つまり、デラックス以前のモデルを1215と呼ぶのは、そのキャリバー名から由来しているのです。文字盤には1215の文字は見られませんが、当時のカタログや広告には、モデル名として1215(トゥエルブフィフティーン)の名が記載されていました。



1951年の英国の雑誌、Country Lifeに掲載された雑誌広告。


~イングランド製であることの意味~

英国は、イングランド、スコットランド、ウェールズ、
そして、北アイルランドの4つからなる連合国であることが
知られていますが、とりわけロンドンが位置するイングランドは
人件費が高く、それに見合った技術力や高品質な製品を
作るための設備が整った工場を運営できる場所であると言えます。

実際、スミス社においても若者や学生向けに開発された
時計の製造はスコットランドやウェールズ工場で行われており、
コストダウンが容易くエントリーモデルの生産に向いていました。

つまり、文字盤やムーブメントに"Made in England"という文字が
プリントされていることは、その製品の品質や耐久性は元より
デザインまでもが一級品であることの証であると言えるのです。




2種類の1215の違い

前置きが長くなりましたが、1215モデルは英国(イングランド)製を名乗れる初のスミスであり、1970年代まで続いたイングランド製スミス腕時計のほとんどの高性能モデルに、この1215とその発展型ムーブメントが、搭載されていたのですから、1215ムーブメントの基本設計がいかに優れていたかをお分かりいただけることでしょう。

それでは、今回入荷した2種類の1215の違いについてお話ししましょう。まずは、1215モデルの特徴ですが、その多くの文字盤はアルミをベースにヘアライン加工が施され、一部にホワイトやカッパー(銅色)の塗装を施したモデルもありますが、両サイドのSが大きいSMITHSのロゴのみが12時の下にプリントされていることが決め手となります。

そして、今回の2点を比較しますと、左がアラビア数字と針にルミナス(夜光塗料)が施されており、ケースのラグの形状がシンプルなスタンダードタイプであることに対し、右はルミナスはなく、ホーンラグという動物のツノのような形状のラグであることが主な特徴と言えます。また、文字盤のサイズは左の方がひと回り小ぶりです。
※文字盤のルミナスは、この個体の場合、そのほとんどが消滅しています。


ルミナス文字盤の1215


上の写真のモデルは、英国の名門ケースメーカー、デニソン社製のニッケル無垢3ピースケースを採用しており文字盤は小さいため、その分ベゼルの幅を増やし、しっかりとした骨太な印象を与えています。そのため31.2mmというサイズですが重厚な存在感のある時計に仕上がっています。



シンプルなラグ形状のルミナス文字盤の1215ですが、ケース側面にはヘアラインが施され、竜頭は段付きのデザインであることで充分な個性を主張しています。



文字盤のアラビア数字は影付きの袋文字という凝った書体。数字のルミナスは経年によりほとんど消滅していますが、長短針にはしっかりとオレンジ色の夜光塗料が残っており、効能はなくなっているものの、この時計の魅力的な個性となっています。文字盤のわずかなエイジングと共に、この個体ならではの素晴らしい佇まいをお楽しみいただけるでしょう。

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ホーンラグの1215

上の写真のモデルは、極めて個性的な動物のツノのような形状のホーンラグが魅力のクロームプレーテッドケース本体にステンレススチール製のベゼルと裏蓋が備わった印象に残るデザインのケースが採用されています。そのため31.2mmというサイズですが、伸びやかさを感じられる時計に仕上がっています。


このホーンラグの1215は、1950年代初期の時計としては全体にとても良いコンディションを保っていますが、写真でお分かりいただけるように青焼針や文字盤のわずかなエイジングが見られる個体と申し上げられます。しかし、それらのエイジングはとても自然で、この時計が70年以上の歳月を過ごしてきた証と言える魅力ある佇まいと感じていただけるはずです。



また、この1215のステンレススチール製の裏蓋には、この時計のアイデンティティーと申し上げられる極めて美しいプレゼンテーションウォッチとしての刻印が施されており、ヴィンテージウォッチならではの魅力を味わうことが出来ます。

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2026年3月26日木曜日

英国スミス社製時計の専門店 ウォッチギャラリービッグベアー
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新入荷のスミス❹
「12オンリー文字盤の風格
 ~アストラルの超レアモデルが入荷!~


極めて個体数の少ない12オンリー

「12(トゥエルブ)オンリー」と呼ばれる個性に満ちた書体の12の数字が印象的なこのアストラルは、20年以上スミス専門の時計店を続けてきた私どもであっても極めてレアなモデルであると申し上げられます。

アストラルには、12オンリーの腕時計はいくつか存在しますが、ルミナス(夜光塗料)が施されたこのモデルは、今回が初入荷となります。




モダンとトラディショナルの融合

アストラルはスミスの中では、先を見据えたモダンなデザインを基本的なデザインポリシーに掲げたモデルですが、このモデルは少々趣の異なるバランスであるといえるでしょう。

それは、アストラルらしいシャープなケース形状や、斬新な書体のアラビア数字やバーインデックスのモダンなデザインに加え、文字盤に与えられた放射状ラインによる扇形の光の演出や、ルミナス(夜光塗料)の効果的な配置、そして、防水ケースによく見られる膨らみのある竜頭形状などの1950年代以前のトラディショナルなデザインエレメントが巧みにバランスしているところに顕著に表れています。





12の数字一点に集約させた力強さ

スミス社の文字盤デザインは、落ち着いたトラディショナルな方向性のモデルが多い中、このモデルのような一見すると奇抜とも思えるデザインを採用したモデルがいくつか存在します。

しかし、スミス社が考えるデザインポリシーには、奇を衒ったような手法はなく、そこには明確な目的を持ったデザイン手法のみが息づいているのです。

このアストラルの「12オンリー」が意味するものは、他のアラビア数字を消し去り繊細なバーインデックスとした潔さが感じさせる「力強さ」であり、それは、正に英国らしい風格であるといえるでしょう。




手にした時に感じる存在感

このアストラルの外径はスミスの中では大き目な34.2mmですが、一般的な現代の時計としては、とても小さいといえるでしょう。

でも、この時計を手にすると実際のサイズとは異なる存在感があることに気づくはずです。それは、この時計が持っている放射線状のラインが生み出す豊かな広がりのあるラジアル文字盤の特徴や12オンリーのデザインが見るものに与える力強さによるものといえます。



防水ケースでこの薄さ

このケースは驚くことに防水ケースです。防水ケースは、通常、裏蓋がスクリュー式で、ねじ込み部分の厚みがあり、ここまで薄い裏蓋やケース本体に仕上げることは難しいことです。

ところが、このアストラルのケースはスリムラインといって、ケース本体の薄さはもちろん裏蓋をテーパー状に仕上げ、17石ムーブメントの厚みを収め、さらに、スクリュー式の裏蓋を使わず本体の特殊な構造でパッキンを備えたスナップオン式を採用。

その効果により、腕に装着した際に極めて薄く見えるという訳です。




モダンとトラディショナルを手に入れる

1960年代後期の先進性とスミスの時計史における伝統とが融合したこのアストラルには、バーガンディーカラーのリアルリザード革ベルトを装着し、さらなる魅力を引き出しました。

英国本国においても、探し出すことが極めて難しい、この超レアモデルと共に贅沢な時を過ごしてみてはいかがでしょう…。

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2026年3月13日金曜日

英国スミス社製時計の専門店 ウォッチギャラリービッグベアー
スミス専任時計師の店主による
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 新入荷のスミス
「ワッフル文字盤と防水ケース」
 アストラルのレアモデルが入荷!

懐古趣味的なデザインのアストラル

シンプルでスタイリッシュなデザインが多い、「星の煌めき」という意味を持つアストラルの中では異端といえるモデルが入荷しました。

1950年代のテイストを全面に取り入ているものの、機能的にはウォータープルーフ、ショックプルーフ、そしてアンチマグネティックまでもを装備した先進的な一本です。



いにしえの佇まい

ワッフル文字盤に、浮彫のアラビア数字、夜光塗料、そして、極め付きはキャンディー塗装のレッドアローと、この1960年代アストラルには、1950年代のモデルに見られるデザインエレメンツが満載されています。


程良く使い込まれたクロームプレーテッドケースの風合いとともに「いにしえの佇まい」が宿っています。また、レンズとベルト以外は、フルオリジナルの外装部品で構成され、純正度合いが高い極めて貴重な一本です。

もちろん、スミスの欠陥部品、ボルトスプリングはビッグベアーオリジナルの対策部品に交換されており、動力ゼンマイを始めとするスプリングなどの消耗部品は新品にリフレッシュされ、発売当時の精度と、それ以上の耐久性を誇ります。



巻心地の良い純正竜頭

竜頭は通常のスミス用とは異なる形状とサイズ感で、このアストラルがウォータープルーフ(防水ケース)であることがひと目でお分かりいただけるでしょう。


その巻き心地は滑らかで、この時代の防水ケースに多く採用されたデザインは、スミス純正竜頭であることの証です。



スナップオン式の裏蓋

通常、スミスの防水ケースは、スクリュー式で、ねじ込み式構造となっていますが、このアストラルはスナップオン式と呼ばれる圧入タイプの裏蓋が採用されています。


ケース本体と裏蓋の間にはパッキンが備わっており、専用工具で裏蓋を圧入いたします。ねじ込み式とは異なり簡易的ではありますが、生活防水としては充分な効果を発揮し、そのことは下の画像をご覧いただければ、ムーブメントの美しさから納得できるでしょう。



パッキンが守りぬいたムーブメント

黒いゴム製パッキンがケース本体と裏蓋との間に挟まれ、竜頭内部のゴムパッキンと共にこのムーブメントを水分やゴミの侵入から約60年間守りぬいたことが、ムーブメントの美しさからお分かりいただけることでしょう。


さらに、振り子には耐震機構と非帯磁機構とが備わり、日常使用における安心感に大きく貢献しています。



正しく使われてきた個体を最良の状態に

ヴィンテージウォッチは平たく言ってしまえば中古品であることに変わりありません。そのため、いかに正しく使われてきた個体を選ぶかがとても重要な鍵となります。


ビッグベアーでは、外観に関しては、スミス本来の部品が使用されていることを第一に、そして、ムーブメントに関しては、良い整備士のメンテナンスを受け、正しく使われてきたこと、つまり各部が消耗していないことを第一に考えています。

このアストラルの場合は、最も劣化しやすい、アクリル製のレンズとベルトについては当時と同じ素材とサイズの現代の新品に交換し、クロームプレーテッドのケースはヴィンテージ感ある愛着の持てる使用感を残しつつ、摩耗のほとんど無いムーブメントは、欠陥部品および消耗部品などの交換を行い各部のバランス取りを済ませた、3年間動作保証を付けられる状態に仕上げています。



スミスの工場出荷時の精度とそれ以上の耐久性

このアストラルが生まれた1960年代にも、スミス社は動作保証を1年間付帯していましたが、時代と共に、製品の保証期間は伸びてきています。


そのことにより、ご使用いただく方の安心感が増し、万一のときのご負担を最小限に減らすことが可能となります。

ビッグベアーでは、現代の製品と同等の3年間の動作保証を付帯し、当時のスミスを大幅に上回る安心感と共にスミスをお使いいただけるよう努力してまいりました。

そのために、私どもは1960年代よりも良質な油脂類を使用し、消耗品の新品交換を始めスミスの欠陥部品とされているボルトスプリング(裏押さえ)の問題を、日本の一流時計部品メーカーと共同開発で対策部品を製作し解決しています。

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2026年3月3日火曜日

 英国スミス社製時計の専門店 ウォッチギャラリービッグベアー
スミス専任時計師の店主による
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新入荷のスミス
「ホーンラグと段付文字盤」
 1950年代の英国で人気を博したモデルが初入荷!

初期モデルならではの魅力

1851年創業のスミス社が、自社工場を英国イングランドのチェルトナムに建造し、Made in Englandの腕時計を生産し始めたのは第二次世界大戦後、間もなくのこと。

今回、紹介するスミスは1952年から1954年まで生産された、動物のツノのような形状のホーンラグと段付きと呼ばれるアラビア数字が並ぶエリアのみ一段下がった文字盤を持つ、英国で大人気の初期物デラックスです。


1215からデラックスへ

戦後初のスミス社製高級時計として登場したのは、上の写真左端の1215モデル。SMITHSのロゴのみの表記でモデル名は記されていませんでした。


そして、その1215モデルの後継として1952年より登場したデラックスモデルは、1965年頃まで極めて多くのデザインで生産されていました。

今回入荷した「ホーンラグと段付き文字盤」のデラックスの生産は1952~1954年に集約されており、その後は、1961年モデルに見られるような、スタンダードなラグのモデルが主流となりました。




地味な細工で大いなる味を手にいれる英国の技

スミスの戦後に製造された高級時計は、デザインから生産までの殆んどの工程をイングランドのチェルトナム工場で行っており、文字盤やケースのデザインやムーブメントの設計は、極めて英国的な手法で行われていました。


そこには、派手な装飾や必要以上の豪華さを好まない英国人の国民性が息づいており、このデラックスの段付き文字盤からも分かるように、地味な細工が見るものにとても赴き深い大いなる味を感じさせる英国の技といえるのです。


伝統の青焼針も健在

1215から受け継いだツノ型の個性あふれるラグ形状と共に、細い青焼針にもスミスならではの伝統を感じることでしょう。


1215からデラックスへとモデル名が変わっても、先代が築き上げた伝統的な手法を活かしつつ新たなジェネレーションへとアップデイトさせるところは、とても英国的といえるでしょう。



基本をかえない小さなことの積み重ねが熟成を生む

1215からデラックスへとモデルが変わっても、スミスであることに変わりない安心感は、地味な変更の積み重ねにとどめることで守り続けられて来たのです。


また、その積み重ねは、外観のデザインに留まることなく基本設計を変えないムーブメントの小まめな改良にも及び、精度や耐久性の熟成にも貢献しています。



質実剛健のスピリッツが宿った改良型ムーブメント

戦後初の1215ムーブメントでは、真鍮ベースの骨格にスイスの時計によく使われるコートドジュネーブという手の込んだスミスとしては、ややオーバークウォリティーともいえる表面加工がニッケルプレーテッドと共に施されていました。


デラックスに搭載されたムーブメントは、1215で採用されていたコストのかかる豪華な装飾を廃止し、さらに、1215の構造的な問題点を払拭。本来の英国的な質実剛健のスピリッツが宿った外観をフロステッドギルト加工にとどめた改良型にアップグレードされています。



品質を裏付けるエンジンターンド加工

ステンレス スチール製の裏蓋には丁寧なエンジンターンド加工が見た目にも美しく
、高品質な機械加工による製品であることを裏付けています。




裏蓋の表面にも高品質の証が

ステンレス スチール製の裏蓋には、外側にも丁寧な切削加工技術による仕上がりが見られ、デラックスの名に相応しい高品質の証を視覚的に感じることが出来ます



細部の造型にも感じられるこだわり

アクリル製レンズを支えるリング状のベゼルは裏蓋と同じステンレス スチール製ですが、こちらはポリッシュ仕上げでホーンラグの表面と質感を揃えていることが分かります。

また、ホーンラグケースの側面にはヘアライン加工が施され、質感の違いが凝ったデザインの竜頭と共に、このケースの上質感を高めています。



母国で高い評価を受けたデラックス

スミス史上初のMade in Englandの高品質腕時計である1215をベースに、構造的な問題点を払拭し、さらに、デザインにも熟成を重ねて生まれたこのデラックス。


英国の伝統が生み、英国のクラフツマンシップにより熟成され、そして、英国人により愛された、この「ホーンラグと段付き文字盤」の1952~1954年に生産された初期物デラックスを味わっていただきたい。

このデラックスの商品ページはこちらから。






2026年2月15日日曜日

英国スミス社製時計の専門店 ウォッチギャラリービッグベアー
スミス専任時計師の店主による
"スミスのブログ"

新入荷のスミス
「魅惑の青焼針」
 正しく使い込まれ、育った個体が入荷!


青焼針の魅力

青焼針は、戦前の懐中時計に多く使われていた伝統的な技法で、工芸品ともいえる高度な技術により生まれた加工技術です。

光が当たると見事なブルーに輝く装飾的な魅力はいうに及ばず、実は耐腐食性も優れた性質をも兼ね備えていることで、超高級品であった戦前の懐中時計にも多く採用されてたことが頷けます。




青く輝く光を楽しむ

 

一見すると平に見える長短針は、立体的に湾曲しており、よく見ると光の当たる角度により針の光方にグラデーションが生じ、繊細で優雅な印象を与えているのがお分かりいただけるでしょう。

つまり、時刻を知るために時計を見た時々で、針の光り方は大きく変わり、光の向きをとらえて腕を微妙に動かすことで、針に輝くシャープなラインが針の湾曲に沿って移動する様子を惚れぼれしながら眺めることが出来るのです。

その光が走る様子は、横方向だけではなく縦方向にもお楽しみいただけるのです。





浮彫のアラビア数字の存在感

アナログ時計には不可欠なインデックス、このデラックスのインデックスは視認性の高いゴシック文字が採用されていますが、さらに、それらのアラビア数字は立体的でエッジの効いた浮彫デザインにより、その存在が強調されています。

そして、アラビア数字の表面にはダークな色合いの金メッキが施され、長年使用され渋く色づいた文字盤と共に、この個体独自の佇まいを生んでいます。

文字盤の経年による表情と腐食を最小限に保ってきた青焼針の奇跡的な美しさはこの個体でなければ味わうことの出来ない、唯一無二の世界観を作り上げていると申し上げても過言ではないでしょう。



クロームメッキにより守られてきた
ケースと竜頭

このデラックスのケースには、クロームプレーテッド、いわゆるクロームメッキが施されており、地金である真鍮を日常の使用による摩擦などから強靭に守り続けてきました。

表面のエッジ部分など、クロームプレーテッドの被膜が擦れている箇所も見られますが、大きな衝撃を受けたりすることななく、その表面は概ね美しい輝きを保っています。



ムーブメントの美しさから、 
その精度の確かさを知る

裏蓋を開けてムーブメントに目を向けると、そこには時計師だけが見ることの出来る神秘的な美しさのメカニズムが詰まっています。

直系わずか27mmほどの小さなムーブメントには時を正確に刻むためのメカニズムが、無駄なスペースの余地なく驚くべき精密さで収まっています。

そこには、飾られた美しさはなく、英国製品らしい機能美のみが存在しており、上の写真をご覧いただくと、その精度の確かさが伝わってくるのではないでしょうか。



70年の歳月が育てた佇まいと
新品当時の性能を手に入れる

この個体にしかない、長年大切に使い込まれてきた証といえる唯一無二の佇まい。

幾度もの整備を受け、正確に時を刻むスミス本来の性能を維持し続けて来たオリジナルオーナーに敬意を払い、その意思を受け継ぎ、さらなる歳月を刻むことで、さらなる奥深い味を重ねていただきたい。

ブルースチールの輝きと共に文字盤のエイジングにも魅力を感じられた方に愛していただきたい、「味わい深い1950年代のスミス デラックス」です。


もっとこの時計を知りたくなった方はこちらからどうぞ。


2025年7月5日土曜日

スミス専任時計師のウォッチギャラリービッグベアー

店主大熊 康夫のブログ

スミスの魅力②

 「スミスの石(ルビー)の意味とは?」
 耐久性と美しさの両立



機械式腕時計と石(ルビー)との関係


機械式腕時計の高性能モデルには、ムーブメントの然るべき場所に石(ルビー)が備わっています。15石や17石といったようにムーブメントの機能やグレードなどにより石の数は変わります。

では、なぜムーブメントに高価なルビーが使用されているのかと疑問に思われることでしょう。その理由は時計に使われている幾つもの歯車や振り子などの軸は鉄でできていますが、その軸を支える軸受けは鉄よりも硬い素材を使用しなければ摩耗してしまうため鉄よりも硬いルビーが使われているというわけです。

また、歯車などの軸とルビーの軸受けが接する部分に時計用に作られた特殊なオイルを注油することで、オイルの硬化が始まる5年間はほとんど摩耗することなく動作し続けます。



左がスモセコの15石ムーブメント、右がセンターセコンドの17石ムーブメント。
意外にも、見た目がシンプルなセンターセコンドの方が、見た目が複雑なスモセコよりも
ムーブメントの構造は複雑なのです。

15石と17石の違い


スミスのムーブメントにルビーが使用されていることをお分かりいただけたところで、次にルビーの数の違いについて説明いたしましょう。

まずは、デラックスやアストラルなどに多く見られるベーシックなムーブメントを例に15石と17石の違いについて解説いたします。

そもそも、戦前の懐中時計や戦後間もなくの腕時計のムーブメントは、ほとんどが6時の位置に秒針のダイアルがあるスモセコ(スモールセコンドダイアル)形式で石の数も15石が一般的です。その理由は、ムーブメントを最もシンプルに設計すると6時の位置に秒針の軸を配置することが理想的であり、その際に必要な石の数が15石となるからなのです。

そして、スモセコの位置をセンターに移動してセンターセコンドにするためには、ギアをひとつ追加して秒針の軸を中心へ移動する必要があります。そのため、増えた軸用の軸受けをふたつ増やさなければならず、17石となるわけです。

つまり、意外にも、見た目がシンプルなセンターセコンドの方が、見た目が複雑なスモセコよりもムーブメントの構造は複雑なのです。





石の数が奇数となる疑問


ここまで、根気よく読み進めていただいた方の頭の中には、恐らく腑に落ちない疑問が生まれているのではないでしょうか。

つまり、ルビーが軸受けの部品なのであれば、1本の軸に対して必ず2個のルビーが必要になるはずで、奇数となるのはなぜかという疑問が生まれるのは当然といえます。

確かにルビーは軸受けに使用されていますが、軸受け以外にも上の写真のように振り子の中心にひとつだけ使用されている箇所があります。このルビーは、ゼンマイの動力が回転運動としていくつかのギアに伝わり、ガンギ車とアンクルという部品により往復運動に変換され最終的にアンクルのアームにより振り子のルビーが左右から交互に叩かれることで、振り子が左右へ規則正しく回転し続け、いわゆる振り子の「行ったり来たりの回転運動」となります。

この振り子に装着されたひとつだけのルビーこそが、ルビーの数が奇数となる理由なのです。





耐久性と美しさの両立


スミスに限らず、高性能な機械式時計のムーブメントには古くから高価なルビーが使用されており、その目的は前述しましたように耐久性を高めることですが、同時に美しさをも併せ持ち、その価値を高めているといえます。

特に上の写真にあるような、ショックプルーフ機能付きの振り子には、2分割されたルビーを十字に形どられたスプリングが支え、落下などの際に振り子の軸が破損しないように衝撃から守っており、さらに、その美しさは格別といえるでしょう。

スミスの特徴ともいえる機械式手巻腕時計の英国的な質実剛健で精度の優れたメカニズムは、派手さを好まない控えめな機能美とともに他社とは大きくことなる個性であり、耐久性と美しさとの高バランスといえるでしょう。




スミスの優れたムーブメントにも目を向けていただきたい


スミスが販売されていた当時、高性能腕時計といえばスイス製を思い浮かべることが多い時代でしたが、実はスミス・デラックスやアストラルなどに代表される高性能腕時計には、世界水準の高性能ムーブメントが搭載されていました。

しかも、それらはイングランドのチェルトナムにあったスミス自社工場で製造されていた正真正銘の英国製であり、質実剛健な外観や高性能かつ整備を怠らなければ半永久的に使用可能というブリティッシュ・スピリッツが隅々にまで宿っています。

スミス社製高性能モデルの特徴といえる、英国らしい間違いのないデザインはスミスを選ぶ際の重要な要素ですが、スミス社製ムーブメントの優れた精度と堅牢性、そして、美しいさとを深く知っていただくことで、さらにスミスの魅力を感じていただけましたら幸いです。

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