スミス専任時計師のウォッチギャラリー・ビッグベアー店主、大熊 康夫のブログ
~時計師の仕事場 #0006~
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スミス1215とは
1215誕生秘話
スミス社は、第二次世界大戦が勃発する以前、英国の時計メーカーとはいえ、その生産をスイスのロンジン社やゼニス社へ依頼しており、純粋な英国生産の時計メーカーではなかった。
戦後、世界水準かつ英国自社工場生産の時計メーカーへの転進を果たしたかったスミス社は、自動車の計器製造の際、技術提携を行っていたスイスの名門時計メーカー、ジャガー・ルクルトの力を借りることになる。
レノア氏により生み出された1215
スミス社は、ジャガー・ルクルトの凄腕、時計技士であったロバート・レノア氏を迎え入れ、世界水準の技術を導入しつつ、英国的で質実剛健な独自のデザインにより、1215ムーブメンを開発した。
レノア氏はテクニカル・ディレクターとして、スミス社に籍を置き、技術面における最高責任者となる。1970年まで続いた英国製ムーブメントの礎を築いたスミス史における重要人物なのだ。
ムーブメントのキャリバー名である1215とはふたつの数字の組み合わせで、12がムーブメントの直径を表すラインという単位であらわしたサイズであり、15は軸受けなどに使用したルビーの数を示している。
スミス社は当時、Made in England(英国製)であることにこだわったため、スイス由来であることを伏せており、その結果、スミスの需要はグローバルにはならず国内にとどまった。
しかしながら、その本当の品質を知っていた時計業界は、スミスの世界水準の精度と英国的なシンプルで、間違いのない優れたデザイン性を見逃さなかった。
スミスが生産したエルメス
真っ先にスミスの高い技術とデザイン性に目を付けたのは、ラグジュアリー・ブランドのエルメス社であった。エルメスのロンドン市場向け腕時計の生産をスミスに依頼したことだろう。それは、1215の時代であり、そのデザインは、正に1215そのものであった。
スミス社はエルメス以外にも、J.W.ベンソン、アスプレイ、ガラードなど、多数の英国老舗ジュエラーの時計を制作している。これらのことは、スミスの優れたデザイン性と世界水準の精度を誇るムーブメントの証であると言えるだろう。
シンプルだが美しい1215
1215のデザインは、どれもシンプルな中にハッキリした主張が現れていて、美しい。中でも当時、流行したホーンラグ・ケースは、1947年から1952年の1215時代を通して使用され、その後もデラックスで引き継がれロングセラーになっていた。
アールデコ調の装飾的なホーンラグは、英国らしいシンプルなデザインの中に際立った気品を感じさせる。1215はスミス社の当時の意気込みを感じさせるマスターピースと言えるだろう。また、スミス本来のベイシックな趣ある佇まいに、最もスミスらしい奥深い魅力がある。
©2021 Watch Gallery BIG BEAR
■戦後初のスミス高性能腕時計 質実剛健を形にしたような1215モデル。そのシンプルで飾り気のない、しかし美しいデザインは、ある意味最もスミスらしい腕時計と言えるかもしれません。ニッケル無垢のベゼルとケース本体は表面の一部を梨地に、そしてベゼルとラグの表面及び側面をポリッシュ加工とした、手の込んだ処理が施されています。
■機能性を重んじたデザイン サイド・ビューに目を向けると、なだらかな美しい曲線で構成された造形は、あくまで機能性に裏付けられたシンプルなデザインで、そこには本当に必要なものだけで築き上げられたデザインの美学を感じ取ることが出来るはずです。また、良く見るとラグのバネ棒取り付け穴も貫通していません。美しさを拘りぬいた結果と言えるでしょう。
■自社製のニッケル無垢ケースケース 裏蓋を開けるとMade in Englandとステンレス製の裏蓋である表記が刻印されています。ステンレスの裏蓋以外のベゼル及びケース本体は、ニッケル無垢製で、ケースメーカーの刻印が無いことから、恐らくスミス自社製のケースであると考えられます。スミス社は戦前にも、極めてクウォリティーの高い自社製ケースを生産していました。
■1215の名前の由来 モデル名である1215はこの美しいニッケルメッキのムーブメントに由来しています。12はムーブメントの直径を表す単位(ライン)で表記すると12となり、15はムーブメントに使用されたルビーの数である15石を表しています。
■様々な1215の存在 1215モデルにはケースや文字盤、そして針のデザインの差によって様々なバリエーションが存在していました。しかしながら、その基本コンセプトは統一されており、一言で言ってしまうと「シンプル」という言葉が最も適切であると言えるでしょう。ラグジュアリー・ブランドのエルメスや英国の老舗ジュエラーJ.W.ベンソンから生産を依頼されたのもこの時代です。
■極めて小さなスモセコも魅力 1215の共通するデザインに、この小さなスモセコを上げることが出来るでしょう。この時代にはセンター・セコンドは存在していませんが、時計のムーブメントの構造上、最もシンプルにセコンド・ダイアルを配置すると必然的にこの6時の位置になると言ことからスモセコであることも1215のデザイン・コンセプトに合致する要素と言えます。