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2022年4月4日月曜日

スミス専任時計師のウォッチギャラリー・ビッグベアー店主、大熊 康夫のブログ

~時計師の仕事場 #0006~

■ デラックスは、ここから始まった ■




「人気モデルの"De Luxe"は、この1215から始まった」

戦後のスミス社製腕時計の中で、デザイン性と信頼性において、絶大な人気のあるデラックスの基礎を作りあげたのが、この、末期1215 "Twelve fifteen" モデルなのです。

今回は、スミス・デラックスの礎ともいえる、この、1215末期モデルのご紹介です。







「戦前の趣を感じさせる、シンプルなデザイン」

クロームメッキケース、アルミ・ヘアライン文字盤、青焼針と極めてシンプルなデザインにして、時を知るための優れた道具としての機能性が、最大限に配慮されています。







「この時計こそが、スミスだった」

文字盤には "SMITHS" の社名ロゴのみがプリントされており、モデル名はありません。戦後初の腕時計であっただけに、当時、この時計こそがスミスだったのです。

公式の呼び名としては、1946年のデビューから、1215が登場する1950年頃までは、RGと呼ばれ、1215の生産はデラックスが登場する1952年まで続きました。

一般的には、デビュー以来、デラックス誕生までのモデルを総称して1215と呼んでいます。









「3ピースの美しい、ホーンラグ・ケース」

1215の代表的なケースとして、生産数の最も多かったのが、このモデルにも使用されているホーンラグ・ケースです。

同一のデザインであっても、形状や材質の異なるホーンラグ・ケースが数種類あり、スミス社のホーンラグ・ケースへ対する拘りの程を知ることが出来ます。

実際、絶大な人気があり、デラックスの初期モデルにも、このホーンラグ・ケースが採用されていたことが、その証であると言えます。







「目覚ましい成長を遂げた1215ムーブメント」

1215シリーズの進化は目覚ましく、1946年から1952年の約6年間の間に10回以上の、スペックの見直しが行われています。

この個体に搭載されているムーブメントは、その最終形と言える熟成されたキャリバーと言えます。そのことはデラックスの初期モデルと、ほぼ変わらないということを意味しています。






「ムーブメントの文字盤側」

文字盤を外さないと見ることの出来ないムーブメント裏側には、軸受けのルビーや、竜頭からの回転をゼンマイへや時刻設定時の針の動きへと伝えるギアや、竜頭の抜き差しを制御するメカニズムが集約されています。






「片側の軸受けには、5石のルビーが装着」

ムーブメントから部品を外してゆくと、複雑な造形の地盤の形状が現れます。

スチール製のギアの軸の回転を支えるために、スチールより硬いルビーが地盤に装着されています。

透明感のある、美しいクリアーレッドに見えるのが天然石を使用したルビーで、このムーブメントの場合は、トータルで15個のルビーを使用しているため、15石というわけです。






「裏蓋側のムーブメントの軸受け」

裏蓋側のムーブメント表面には、上質なフロステッド・ギルト加工が施され、極めて美しい軸受けとしてのルビーが埋め込まれています。






「振り子にもルビーが装着」

振り子の中心付近を注意してご覧いただくと、軸の左側に赤いルビーが見えるのがお分かりいただけるでしょうか

ゼンマイから伝わって来た回転が往復運動に変換され、このルビーを左右に叩くことにより、振り子が左右に回転し続けるのです。








「変わった形状のガンギ車」

写真中央に見える、変わった形状の歯車は、ガンギ車と言って、ゼンマイから伝わって来た回転運動を、左右の往復運動に変換させるためになくてはならない歯車です。

全ての部品は、繊細かつ精巧に造られており、また、極めて美しいことをお分かりいただけるでしょう。






「ゼンマイ巻上系統の対策」

この3つの部品は、ゼンマイの巻き上げを行うための中間的なギアとカラー、そしてプレート自体に形づくられた軸です。

1215の中期までは、この3つの部品のうち、中央のスチール製のカラーがなく、真鍮製の軸へ、直にギアが装着されていました。

このギアには指が竜頭を巻きあげる力を、ゼンマイへ伝えるための大きな力が加わるため、スチールより柔らかい金属である真鍮の軸は5年ほど使用すると摩耗が進行して、ギアの回転が真円でなくなってしまうのです。これが1215が抱える問題点と言えます。

つまり、この1215には対策部品としてのカラーが加えられており、安心して日常的にご使用いただける耐久性が備わっているということなのです。







この時計の商品ページはこちらから



2021年4月2日金曜日

 スミス1215とは



1215誕生秘話

スミス社は、第二次世界大戦が勃発する以前、英国の時計メーカーとはいえ、その生産をスイスのロンジン社やゼニス社へ依頼しており、純粋な英国生産の時計メーカーではなかった。



スミス社は、1910年より、ほとんどの英国車のメーターを
手掛けており、ジャガー・ルクルト社と深い関係にあった


戦後、世界水準かつ英国自社工場生産の時計メーカーへの転進を果たしたかったスミス社は、自動車の計器製造の際、技術提携を行っていたスイスの名門時計メーカー、ジャガー・ルクルトの力を借りることになる。




スミス社の自社工場のあった英国チェルトナムの市長に、
時計の組み立てについて説明するレノア氏(1944年)


レノア氏により生み出された1215

スミス社は、ジャガー・ルクルトの凄腕、時計技士であったロバート・レノア氏を迎え入れ、世界水準の技術を導入しつつ、英国的で質実剛健な独自のデザインにより、1215ムーブメンを開発した。



真鍮にニッケルメッキが施された1215ムーブメント。
シンプルだが、表面に独特の装飾が施されており
デザインにも、当時のスミス社の意気込みが伝わってくる


レノア氏はテクニカル・ディレクターとして、スミス社に籍を置き、技術面における最高責任者となる。1970年まで続いた英国製ムーブメントの礎を築いたスミス史における重要人物なのだ。



1950年代の保証書には、テクニカル・ディレクターとして、
ロバート・レノア氏のサインが記されている


ムーブメントのキャリバー名である1215とはふたつの数字の組み合わせで、12がムーブメントの直径を表すラインという単位であらわしたサイズであり、15は軸受けなどに使用したルビーの数を示している。


スミス社は当時、Made in England(英国製)であることにこだわったため、スイス由来であることを伏せており、その結果、スミスの需要はグローバルにはならず国内にとどまった。


しかしながら、その本当の品質を知っていた時計業界は、スミスの世界水準の精度と英国的なシンプルで、間違いのない優れたデザイン性を見逃さなかった。



スミス社がデザインからメカニズムまで全てをエルメスから任された
エルメスのロンドン市場向けモデル。エルメスのロゴまでもが、
スミスによるデザインであったと言われている


スミスが生産したエルメス


真っ先にスミスの高い技術とデザイン性に目を付けたのは、ラグジュアリー・ブランドのエルメス社であった。エルメスのロンドン市場向け腕時計の生産をスミスに依頼したことだろう。それは、1215の時代であり、そのデザインは、正に1215そのものであった。


スミス社はエルメス以外にも、J.W.ベンソン、アスプレイ、ガラードなど、多数の英国老舗ジュエラーの時計を制作している。これらのことは、スミスの優れたデザイン性と世界水準の精度を誇るムーブメントの証であると言えるだろう。




1951年の英国誌 Country Life に掲載された広告からの抜粋


シンプルだが美しい1215


1215のデザインは、どれもシンプルな中にハッキリした主張が現れていて、美しい。中でも当時、流行したホーンラグ・ケースは、1947年から1952年の1215時代を通して使用され、その後もデラックスで引き継がれロングセラーになっていた。



SMITHSだけの文字盤のロゴ、アールデコ調のラグ、
そして、気品あふれる佇まいと1215の魅力は奥深い



アールデコ調の装飾的なホーンラグは、英国らしいシンプルなデザインの中に際立った気品を感じさせる。1215はスミス社の当時の意気込みを感じさせるマスターピースと言えるだろう。また、スミス本来のベイシックな趣ある佇まいに、最もスミスらしい奥深い魅力がある。


©2021 Watch Gallery BIG BEAR



2019年3月9日土曜日

1215「テゥエルブ・フィフティーン」本来の性能


戦後初のスミス高性能腕時計1215のクウォリティー

1910年代よりスミスは、スイスのロンジン社に依頼して腕時計の生産を行い、主にロンドンのストランドにあった本社ショールームでミリタリー・ユースを主眼にしたトレンチ・ウォッチを販売していました。その優れた精度と耐久性は、ロンジン社が生産を行っていたことから、今さら記述する必要はないでしょう。そして、戦後、スミス社は独自の工場で生産した英国製のムーブメント搭載の製品の発売を試みました。その腕時計が今回紹介するジャガー・ルクルト社の技術者を招き入れ設計した1215「テゥェルブ・フィフティーン」です。その生産は英国のチェルトナムに建設されたスミス社のチェルトナム工場で行われ、それまでのSwiss madeに代わり誇らしくMade in Englandと文字盤やムーブメントに記載されるようになりました。

■戦後初のスミス高性能腕時計         質実剛健を形にしたような1215モデル。そのシンプルで飾り気のない、しかし美しいデザインは、ある意味最もスミスらしい腕時計と言えるかもしれません。ニッケル無垢のベゼルとケース本体は表面の一部を梨地に、そしてベゼルとラグの表面及び側面をポリッシュ加工とした、手の込んだ処理が施されています。

■機能性を重んじたデザイン          サイド・ビューに目を向けると、なだらかな美しい曲線で構成された造形は、あくまで機能性に裏付けられたシンプルなデザインで、そこには本当に必要なものだけで築き上げられたデザインの美学を感じ取ることが出来るはずです。また、良く見るとラグのバネ棒取り付け穴も貫通していません。美しさを拘りぬいた結果と言えるでしょう。

■自社製のニッケル無垢ケースケース      裏蓋を開けるとMade in Englandとステンレス製の裏蓋である表記が刻印されています。ステンレスの裏蓋以外のベゼル及びケース本体は、ニッケル無垢製で、ケースメーカーの刻印が無いことから、恐らくスミス自社製のケースであると考えられます。スミス社は戦前にも、極めてクウォリティーの高い自社製ケースを生産していました。

■1215の名前の由来              モデル名である1215はこの美しいニッケルメッキのムーブメントに由来しています。12はムーブメントの直径を表す単位(ライン)で表記すると12となり、15はムーブメントに使用されたルビーの数である15石を表しています。

■1215は正規の名称              当時の雑誌広告やカタログを見ると1215の名前が使われており、文字盤には1215の記載がないものの、正規の名称であったことが分かります。

■様々な1215の存在             1215モデルにはケースや文字盤、そして針のデザインの差によって様々なバリエーションが存在していました。しかしながら、その基本コンセプトは統一されており、一言で言ってしまうと「シンプル」という言葉が最も適切であると言えるでしょう。ラグジュアリー・ブランドのエルメスや英国の老舗ジュエラーJ.W.ベンソンから生産を依頼されたのもこの時代です。

■極めて小さなスモセコも魅力         1215の共通するデザインに、この小さなスモセコを上げることが出来るでしょう。この時代にはセンター・セコンドは存在していませんが、時計のムーブメントの構造上、最もシンプルにセコンド・ダイアルを配置すると必然的にこの6時の位置になると言ことからスモセコであることも1215のデザイン・コンセプトに合致する要素と言えます。


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2018年8月5日日曜日

1950年代初期の1215


熟成した1215(トゥウェルブ・フィフティーン)

戦後初の100%英国生産のハイクウォリティー・ムーブメント搭載のスミス社製腕時計となる1215は、1946年より生産を開始し、デラックスがリリースされる1950年代初期まで販売されていたと言われています。この1950年代初期の1215モデルは、各部にデラックスの特徴と言えるエレメントが採用された、いわば熟成されたモデル末期の1215と言えます。その内容は視覚的なデザインのみならず、ムーブメントの機能的な様々な問題点を解決すべく改良がなされているため、デラックス同様に信頼性、耐久性共に向上した1215と言える仕上がりとなっています。

文字盤にはシンプルにSMITHSのロゴのみがバランスよく配置され、これぞスミスと言える面構え、かつ初期デラックスの雰囲気を持ち合わせた、極めてスミスらしいモデルと言えるでしょう。






文字盤の表面はざらつきのある仕上がりでエイジングの効果を計算に入れてデザインされたかのような、独特な質感を生み出しています。浮彫のアラビア数字と付け根がくびれたエレガントな長短針との相性は抜群!このモデルの文字盤からデラックスのスタンダードが生まれたといっても過言ではないでしょう。



端正な作りの一段掘り下げられたスモールセコンド・ダイヤルには繊細なアラビア数字と5秒刻みのインデックスが、この時計のシンプルかつ上品な佇まいを構築しています。文字盤下部には、極めて控えめにMADE IN ENGLANDの文字が主張しています。英国生産であるスミスの誇りを感じさせるチャーム・ポイントです。



ケースは、本体、裏蓋共にSS製で、ベゼル一体型の本体のみ金メッキが施されています。真鍮に金メッキの一般的なスミスのケースとは異なり、使い込むことで地金であるステンレス・スチールが姿を現し、そのコントラストが正しく使い込まれた道具ならではの美しさとなります。竜頭も使い込まれ味わいを増した表情はオリジナルの証でもあります。


裏蓋を開けると、同時に文字盤とムーブメントがケース本体から離れる構造となっています。ムーブメントは裏蓋に埋め込まれる形となっており、SSにより包み込まれたムーブメントは外部からの衝撃から守られています。





裏蓋の背面にはヘアラインが施されています。こんなひと手間かけたデザインもこのケースの特徴のひとつと言えます。








裏蓋の内部には刻印があり、BWC(ブリティッシュ・ウォッチ・カンパニー)社製のステンレス・スチールケースであることが分かります。もちろん英国製です。







質実剛健にして繊細な高性能キャリバー、1215Cタイプムーブメントは精度耐久性に優れるだけでなく、極めて整備性の高い扱いやすいムーブメントといえ、時計士の立場では、このことはとても重要でありがたい性能と言えるでしょう。





こちらにもMADE IN ENGLANDと刻印がありもちろん英国イングランドのチェルトナム工場で生産されたムーブメントであることが分かります。








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2018年6月18日月曜日

ルミナス仕様のSSケース1215モデル


ステンレス・スチールの1215(トゥウェルブ・フィフティーン)

戦後初期に登場した純英国製の1215モデルは、スミス社が独自に開発した初のMADE IN ENGLANDのムーブメントが搭載されています。初期モデルということで、不具合の出る部分も多く、状態の良い初期の1215は極めて少ないと言えるでしょう。そんな中、この個体は、オイルとグリースの管理が良かったためか、使用感のある外観とは裏腹に極めて良好な精度を保っています。


1940年代の1215は、そのほとんどが金無垢やクロームメッキ、または、金メッキのファンシーラグの3ピースケースに搭載されていますが、このモデルはオーソドックスなデザインのSS製デニソンケースが採用されており、極めてレアなモデルと言えます。SSケースは硬質なイメージがありますが、ラグのデザインなどで、とても温かみのある印象を与えるモデルです。



また、1215の特徴であるアルミの地肌を活かした文字盤とブルースチールの長短針には、共にルミナス(夜光塗料)が施され、趣き深いデザインとなっています。ケースには使用キズが見られ、日常的に使用されていた個体であることが分かります。正しく使い込まれた道具だけが持つ、美しさが各部に宿っています!






長針の先端は文字盤側に湾曲しており、レンズのカーブに合わせた繊細な形状。そして、文字盤のアラビア数字はルミナスで色づけられた部分を囲むようにブラックの縁取りが施され、実際は平面的なプリントですが立体的に見えるデザインとなっています。



スモールセコンドの下に微かにMADE IN ENGLANDの文字がプリントされています。インデックスのラインも極めて繊細なラインにより形成されています。シンプルですっきりとしたデザインである反面、デリケートで繊細な面を持ち合わせた魅力的なモデルです。






竜頭は防水効果を目的としたものではありませんが、気持ち程度の防塵対策と言える二重構造です。また、サイズが少々大き目で巻きやすいデザインと言えます。巻上げの際には手になじみ、愛着の持てる形状であることが指に伝わってきます。






ステンレス・スチール製の裏蓋にはいくつかの浸食された痕が見られますが、ヴィンテージウォッチらしい風格と約70年間の年輪を感じさせるエイジングです。







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2018年1月15日月曜日

デニソンケースの1215後期モデル


毎日使える1215モデル

スミス社製腕時計の戦後最初期モデルである1215は後のデラックスやアストラルなどとは異なり「コレクションには良いが実用には信頼性が今ひとつ」という声を聴くことがあります。確かに1940年代の1215初期モデルに搭載されていたムーブメントは、消耗の早い部品もあり使用するのに気を使うことがあるのも事実です。1950年代には1215モデルに多くの改良が加わり信頼性、耐久性の向上したアップグレード・モデルが登場しました。

信頼性の上がった金メッキ・キャリバー

最初期のニッケルメッキのムーブメントは見た目の美しさは素晴らしいのですが、耐久性に関する弱点がありました。この金メッキのムーブメントになってからは改良がくわえられ一気に信頼性が向上し、毎日使用できる個体が増えました。


SMITHSのみのロゴが味わい深い

1215モデルの文字盤にはモデル名がありません。銀色のアルミ製盤面に極めてシンプルなロゴやアラビア数字、インデックスがプリントされて、ブルースチール針がその個性を引き立てています。最初期の1215は文字がプリントではなく、戦前の懐中時計同様に手書きのものが存在していました。

SS素材を採用して剛性をアップ

クロームメッキの3ピースケースは本体が真鍮にクロームメッキ。そして、ベゼルと裏蓋はステンレス・スチールが採用され剛性を保っていました。最初期の1215には真鍮製のベゼルが使われており、変形しているものが多かったようです。




工作精度の高いデニソン社製ケース

この1215のケースには裏蓋の内側に刻印のない製品とこの裏蓋のようにDENNISON社の刻印が施された製品のふたつがありす。どちらも外観は一緒で見分けがつきにくいですが、刻印ナシのケースは工作精度が低くレンズの取り付けなどに問題があります。

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